ちょうど1年前、2015年12月28日号の「日経コンストラクションの見どころ」で、「今年は建設の品質が問われた1年だった」と書きました。免震ゴム支承の偽装、落橋防止装置の溶接不良隠蔽、マンションでの杭のデータ改ざんなど、品質の信頼を揺るがす事態が相次ぎました。

 そして2016年、今年はさらに悪質な不祥事がありました。日経コンストラクションでもたびたび報道してきた東亜建設工業による地盤改良の品質偽装問題です。

 一連のトラブルは、工事が終わったら見えなくなってしまう部分で起こっている点が共通しています。揺らいだ信頼を回復するには、一般の人々に対して、見えない部分でもしっかりとした品質のものを造っていることを示せなければなりません。日経コンストラクション12月26日号では、特集「見えない施工品質」を企画し、品質確保に向けた取り組みを追いました。

日経コンストラクション2016年12月26日号特集「見えない施工品質」から
日経コンストラクション2016年12月26日号特集「見えない施工品質」から
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 完成後に見えない部分の品質を確保するには、施工中の状況をチェックするのが確実です。国土交通省が落橋防止装置設置工事の特記仕様書に抜き打ち検査の実施を盛り込んだり、杭に関して受発注者ともに全数確認を義務付けたりなど、厳しい検査体制を敷く動きが出てきています。

 ただし、手間のかかる方法は長続きしないので、確実性がそこそこ高く、手間を少しでも軽減できる方法が模索されています。特集記事では、地盤下の状況の可視化技術や新たな非破壊検査手法など、ICT(情報通信技術)を活用する事例も紹介しました。

 こうした問題が発覚すると、「いかにミスや施工不良を見つけるか」に焦点が当たりがちです。そんななか、特集記事で紹介した日本埋立浚渫協会の野口哲史技術委員長の言葉が印象に残りました。東亜建設工業の問題に対して、「不正問題と言われるが、根っこには施工不良があったために起こった問題だと理解している。まずは施工不良を生じさせないことが重要だ」――。同協会は、難しい地盤で確実に地盤改良を行うために、会員各社の技術的なノウハウを共有することにしました。ライバル会社に隠しておきたいノウハウを明かしてまでも、施工の確実性を高め、業界の信用回復に努めようというのです。

 偽装問題では、ともすると「偽装する人が悪い」で済まされがちです。品質問題に限らず、例えば事故の場合でも、個人や組織の問題に帰結させてしまうケースが見受けられます。「自社の技術は、要求されるレベルにどこまで応えられているのか」。偽装の背景にある「技術」について、改めて見つめ直すことも重要です。