今年9月に発生した関東・東北豪雨では、19の河川で堤防が決壊し、茨城県では鬼怒川の氾濫で約40km2が浸水するなど、大きな被害が生じました。日本では毎年のように大規模な豪雨災害が起こっています。

 原因はいろいろと考えられます。雨の降り方が一昔前とは変わり、短時間強雨の頻度が高まっていること。堤防や砂防施設の整備がなかなか進まないこと。住民の災害に対する意識や避難体制が必ずしも十分でないこと。こうした状況下で、土木が果たすべき役割とは何か――。日経コンストラクション11月23日号では、特集「水害対策の宿命」を企画しました。

日経コンストラクション2015年11月23日号特集「水害対策の宿命」から
日経コンストラクション2015年11月23日号特集「水害対策の宿命」から
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 特集記事ではまず、関東・東北豪雨について検証しました。鬼怒川の堤防が決壊したメカニズム自体は特殊なものでなく、越水した河川水が堤防を洗掘したことが主な要因と考えられています。鬼怒川の場合、計画どおりの高さと幅を満たす「完成堤防」の割合は、今年3月末時点で全体の4割程度にすぎず、堤防の決壊箇所は「10年に1回」の洪水も流せない区間でした。堤防かさ上げの計画を進めていましたが、対策が間に合わなかったのです。

 堤防を着実に整備していくことは、間違いなく土木の重要な役割です。しかし、もはやそれだけでは十分とは言えません。堤防整備に時間がかかることや、計画規模を超える大雨が降る可能性があることを踏まえ、国や自治体では「タイムライン」と呼ぶ行動計画の作成を始めています。河川の氾濫が起こることを前提に、その数日前から時系列で、各関係機関が行うべき項目をあらかじめ整理しておくものです。豪雨は地震と異なり、来るタイミングがある程度予測できるので、こうした対策が有効です。

 ただしタイムラインは、作成したから安心という性格のものではなく、実行に移すのに相当な困難が予想されます。例えば、首都圏を流れる利根川、江戸川、荒川が氾濫した場合、要避難者は数百万人規模に達すると想定されています。それだけの人数を避難させるには、氾濫の数日前から、手際よく避難を始める必要が出てきます。

 豪雨の際に避難勧告が出ても、避難する人はわずかしかいないのが現実です。被害を最小限に抑えるには避難の確実な実施が必須ですが、住民が災害の状況をリアルにイメージできなければ不可能です。行政は計画を綿密に立てるだけでなく、災害のイメージを住民と共有し、災害や避難に対する住民の意識を高めていくことが欠かせません。