高度経済成長期、建設事故による死亡者数は年間2000人を超えていました。その後、ソフト・ハード両面で対策が進み、1996年以降は1000人を下回り、2015年は327人にまで減少。過去最少を記録しました。

 しかし、ここ7年間は死亡者数が300人台で推移しており、死亡者数が下げ止まっている印象を受けます。重大事故は、相変わらず根絶できていません。

 そして、今年も重大な事故が発生しています。なかでも4月と5月に、新名神高速道路の建設現場で立て続けに発生した事故は記憶に新しいところです。日経コンストラクションで既報のとおり、有馬川橋では桁の架設に使っていた門形クレーンが傾き、桁がバランスを崩して落下。余野川橋では、架設中の桁を支えていたベント(仮支柱)が転倒しました。

 二つの事故に共通しているのは、門形クレーンやベントといった仮設構造物が事故の引き金になっている点です。仮設の場合、本設構造物に比べて事前の調査や安定計算などが十分でないケースも多く、事故につながりやすい一因になっています。

 日経コンストラクション10月10日号では、特集「その現場判断が事故を招く」を企画しました。サブタイトルにあるとおり、手薄になりがちな”仮設“に焦点を当てています。

日経コンストラクション2016年10月10号特集「その現場判断が事故を招く」から
日経コンストラクション2016年10月10号特集「その現場判断が事故を招く」から
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 特集記事では、新名神での事故の「その後」を追ったほか、有馬川橋と同様に架設中の桁がバランスを崩してジャッキから転落した北海道の大坪沢川橋の事故、北海道苫小牧市内で発生した工事中の土砂崩落事故について詳報しました。苫小牧の事故は、搬出用に仮置きした「落とし込み土」が崩落したものです。きちんとした図面や設計計算書があるわけではないという点で、仮置き土も仮設構造物も、同じような問題をはらんでいることを指摘しています。特集記事ではこのほか、ベテランの技術者に、仮設事故の防ぎ方について語ってもらいました。

 この原稿を書いているさなか、また新名神高速の建設現場で死亡事故が発生したとの一報が入ってきました。事故は簡単になくなるものではありませんが、我々は今後も、事故防止に少しでも役立つような情報をお伝えしていきたいと考えています。