昨年、国が自治体などに対して橋とトンネルの定期点検を義務付けたことを契機に、インフラ維持管理の課題が一気に顕在化しました。特に困っているのは、技術職員の数が少なく、予算規模も小さい中小の自治体でしょう。インフラ点検の経験がほとんどない、予算がなく更新はおろか十分な補修や補強もままならない――。こんな自治体の話を耳にします。

 この窮状をどうやって乗り切るか。いま脚光を浴びているのが、簡単に言えば「できないことは他人にやってもらう」という方法です。一定の範囲の下水道や道路などの維持管理をまとめて民間に委託する「包括民間委託」、国が自治体に代わって橋などを補修する「修繕代行」といった様々なメニューが出てきました。道路の不具合箇所の発見から簡単な補修までを、地元の住民に任せている自治体もあります。

 こうした取り組みが注目されている理由は、不足する人材を手当てでき、行政コストの削減につながるなど、自治体にとっていいことずくめだからです。

 ところが、先行する自治体では、必ずしも想定どおりに事が進まず「壁」にぶつかっているケースも出てきています。日経コンストラクション8月24日号では、そうした新しい取り組みの効果と課題を明らかにしようと、特集「インフラマネジメント、壁の向こう側」を企画しました。

日経コンストラクション2015年8月24日号特集「インフラマネジメント、壁の向こう側」から
日経コンストラクション2015年8月24日号特集「インフラマネジメント、壁の向こう側」から
[画像のクリックで拡大表示]

 一例として取り上げたのが、東京都府中市の包括民間委託。延長3.5kmの道路の維持補修や街路樹のせん定などを、民間企業3社から成るJVに3年契約で委託しています。エリアが限られているため費用の削減額は小さいものの、こまめな巡回が奏功し、市民からのクレームが減るといった効果が現れているそうです。

 しかし、民間委託ならではの問題も露呈しました。JV構成企業の1社が経営破たんしたのです。破たんした企業はスポンサー企業ではなく、かつ事前に「どうすれば迷惑にならないか」と市に相談を持ちかけていたことから、業務は途切れることなく、後任の会社も見つけることができました。しかし、仮にJVのスポンサーだった企業が前触れもなく破たんしたらどうでしょうか。「民間に委託したら後はお任せ」ではなく、民間に委託したゆえのリスクについて、管理者は備えておく必要があります。

 念のため、今号の特集は「外部への委託はリスクを伴うので避けるべきだ」という趣旨ではありません。ヒト・モノ・カネの不足を補うのに、民間委託や国からの支援は相当に有効な手段です。最終的な責任は管理者が負うことを前提に、外部の組織や人の力を有効に生かす取り組みが望まれます。