今年4月に発覚した羽田空港の地盤改良工事での施工不良。偶然起きた施工ミスを報告できないまま……といった話かと思いきや、これまで日経コンストラクションでお伝えしてきたとおり、その実情は信じられないものでした。

 結局、5件の空港工事と1件の港湾工事で施工不良の偽装が明らかになりました。そして7月26日、東亜建設工業は社内調査委員会の報告書を公表し、社員の処分を発表。これをもって、同社としては問題に一区切りつけた形になりました。
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 しかし、なぜこんなことが起こってしまったのか、腑に落ちない思いを拭い去れない方も多いのではないでしょうか。そこで日経コンストラクションは、この問題の本質について考えるべく、8月8日号で特集「黙認体質の罪」を企画しました。

日経コンストラクション2016年8月8日号特集「黙認体質の罪」から
日経コンストラクション2016年8月8日号特集「黙認体質の罪」から
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 様々な問題点が挙げられますが、まず驚くのは巧妙な“偽装システム”の存在でした。同社では、バルーングラウト工法の心臓部と言える削孔や薬液注入を管理するシステムに、プログラムの修正を施していました。機器などに起因する異常値が表示された時、そのデータを補正して記録するようにしたのです。これを、データの改ざんに悪用していました。

 偽装に手を染めた複数の作業所長は、同社の防災事業室長などからこのデータ補正機能の存在を知らされ、偽装に利用していました。防災事業室長は、バルーングラウト工法開発のキーマンで、プログラム修正を指示した張本人でもあったのです。

 同社が、「結果として、滑走路に対しては不適格な工法であったと認識している」(末冨龍副社長)と認めた工法の施工が失敗したのは、現場としては仕方なかったと言えます。ただ、開発に携わった防災事業室長に相談したところ、返ってきた答えは「施工方法が悪いのであって、工法自体の問題ではない」。併せて、先の“偽装システム”の存在を示唆される――。同社の調査結果どおり、「不正の指示はなかった」としても、一会社員として、現場の技術者が取り得る対応は限られていたのかもしれません。

 とはいえ、不正に関与していたのは少なくとも28人、関与していなくても知っていた人はさらに多かったはずです。誰かが声を上げることはできなかったのでしょうか。特集記事の末尾では、不正を早期に発見して適切に対処するための制度や考え方についてまとめています。「東亜問題」は事があまりにも大きくなりすぎましたが、そこに至る小さな芽は、どこにでも潜んでいるはずです。私自身もそうですが、この問題を自分のことに置き換えて、考えてみていただきたいと思います。