「グリーンインフラ」。まだあまりなじみのない言葉ではないでしょうか。直訳すれば「緑の公共構造物」ですから、道路法面の緑化や施設の屋上庭園といったものが思い浮かぶかもしれません。

 土木分野での緑の利用といえば、かつては環境改善や景観の向上などが目的とされてきました。しかし、グリーンインフラはもっと幅広い概念です。例えば、防潮堤と一体で整備した樹林などを海岸保全施設として利用する「緑の防潮堤」、都市部での内水氾濫を防ぐための雨水貯留施設なども、グリーンインフラに位置付けられます。悪くいえば「添え物」的だった緑が、防災や治水といった分野のインフラとしても重要性を増しつつあるのです。

 昨年8月に閣議決定された新しい国土形成計画や、同9月に制定された第4次社会資本整備重点計画で、グリーンインフラの推進が方向付けられました。今後の社会資本整備でグリーンインフラについて知っておくことが重要であるとともに、ビジネスチャンスに結び付く可能性も大きいと言えます。このような社会情勢を受け、日経コンストラクション7月25日号では、特集「いざ!グリーンインフラ」を企画しました。

日経コンストラクション2016年7月25日号特集「いざ!グリーンインフラ」から
日経コンストラクション2016年7月25日号特集「いざ!グリーンインフラ」から
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 グリーンインフラを意識して行われた事業はまだ多くありませんが、既に考え方を先取りした事例は出始めています。特集記事ではこうしたケースを中心に取り上げ、グリーンインフラとは何か、分かりやすく解説しました。

 例えば、特集記事の冒頭で取り上げた福岡県福津市の川づくり。いわゆる「三面張り」の都市河川だった上西郷川を、土と緑を使って緩傾斜護岸に再整備しました。治水安全度が高まったほか、生物の生息の場が確保され、親水性も向上しました。

 手法としては、従来の多自然川づくりそのものです。しかし、グリーンインフラは、河川敷内の整備で完結せず、敷地の内外をトータルデザインすることで様々な効果を生み出すのが特徴です。上西郷川では県と市の垣根を越えた事業によって、隣接する公園や調整池をトータルでデザインしたり、森林組合から提供してもらった間伐材を使って地元の小学生が水制を施工したりなど、環境教育の場としての利用や、地域産業への貢献に結び付きました。さらに、周辺の宅地などの資産価値向上にも寄与しているようです。

 重要なのは、こうした事業は石や木といった自然素材だけで成り立っているわけではなく、コンクリート二次製品などとの組み合わせが欠かせないという点です。ただし従来は、自然との共生という面で不十分な製品も少なからずありました。逆説的にいえば、技術開発の余地は大きいのです。緑が「添え物」からインフラ整備の主役に躍り出ようとしている今、ビジネスチャンスも大いに広がる兆しを見せています。