熊本地震では、橋の被害が随所に見られました。ただ、落橋したのは4橋で、地震の規模の割には少なく感じられます。これまでの度重なる大地震を受け、耐震補強や落橋防止の対策が進みましたが、その効果が発揮されたことは間違いなさそうです。

 しかし、熊本地震による橋の被災メカニズムが明らかになっていくなかで、こうした対策の効果は、必ずしも想定どおりでなかったことも分かってきました。つまり、落橋こそ少なかったものの、いわば「たまたま」落ちずに済んだ橋もあったと考えられるのです。

 今後、地震による被害を最小限に抑えるには、狙いどおりの効果を確実に得られる対策を打つことが重要です。もし、熊本地震で落橋が少なかったことを「結果オーライ」で済ましてしまえば、“次”の地震でさらに大きな被害に見舞われないとも限りません。そうした思いを込めて、日経コンストラクション7月11日号では、特集「追跡・熊本地震 橋はまた壊れる」を企画しました。

日経コンストラクション2016年7月11日号特集「追跡・熊本地震 橋はまた壊れる」から
日経コンストラクション2016年7月11日号特集「追跡・熊本地震 橋はまた壊れる」から
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橋軸直角方向の落橋を防いだPCケーブル

 「たまたま」の代表として挙げられるのが、落橋防止構造や横変位拘束構造といった落橋防止対策です。例えば、熊本県道28号の大切畑大橋。上部構造が下部構造に対して1mほど橋軸直角方向に移動しましたが、落橋防止用のPCケーブルが橋台と桁をつなぎ止め、落橋を免れました。とはいえ、PCケーブルは本来、橋軸方向の相対変位を制限して落橋を防ぐ目的のもの。橋軸直角方向のずれを止めたのは、偶然だったとも言えるわけです。実際、同橋の片側の橋台では、PCケーブルを通していた横桁の孔の縁でケーブルが切断されている箇所もありました。

 落橋を免れたという事実は、PCケーブルを橋軸直角方向の落橋防止対策として採り入れる価値があることを示唆しています。ただしその場合、上記のようなケーブル切断などが起きないよう、橋軸直角方向の変位を前提とした設計をする必要も出てきます。

 他方、2012年版の道路橋示方書では、設計の合理化や維持管理性の向上を目的として、落橋防止対策を省略する方向性が打ち出されました。落橋防止対策は省略すべきか否か、設けるならどのような構造にすべきなのか――。落橋防止対策だけでなく、熊本地震の被害を機に新たに検討しなければならない事柄は山積しています。