石井啓一・国土交通大臣が「i-Construction」の概念を発表したのは昨年11月。その後、あまり準備期間もないなかで、この4月からi-Constructionに関連した15の新基準の運用が始まりました。国交省が本気で取り組んでいる様子がうかがえます。

 改めておさらいすると、i-Constructionとは、測量から設計、施工、検査、維持管理、更新までの全てのプロセスにICT(情報通信技術)を導入するなどして、建設産業の生産性を向上させる取り組みです。ただ、言葉こそ広まっていますが、捉えどころのない感じも否めません。具体的にどんなことをすればいいのか、これまで取り組んできた情報化施工やCIMと何が違うのか――。

 日経コンストラクション6月27日号では、特集「建設ICT2016 『i-Con』がいざなう半歩先の未来」を企画しました。i-Constructionの登場で建設産業はどう変わるのか、ICT活用でどんなメリットがあるのか、先進的な活用事例を交えて解説しています。

日経コンストラクション2016年6月27日号特集「建設ICT2016 『i-Con』がいざなう半歩先の未来」から
日経コンストラクション2016年6月27日号特集「建設ICT2016 『i-Con』がいざなう半歩先の未来」から
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 i-Constructionは、情報化施工やCIMも取り込む形で、建設事業の全プロセスで一貫して三次元データを活用するのが特徴です。既に現場測量においては、3Dレーザースキャナーなどを使う三次元測量が本格的に導入され始めました。特集記事の冒頭では、首都高羽田線の大規模更新事業の事例を紹介しています。現場では、MMS(モバイル・マッピング・システム)と呼ぶレーザースキャナー搭載の車で、自走しながら三次元測量を実施しました。今後の設計、施工、検査など、全プロセスのベースとなる広範囲のデータを短時間で取得できるのは大きなメリットです。

 一方、i-Constructionには、ICT活用以外の側面もあります。部材のプレキャスト化や発注平準化といった異なる文脈で語られてきたテーマを含め、インフラ整備全体の“体質改善”という大きな目標を掲げた点も大きなポイントです。国交省のi-Construction委員会委員を務めた建山和由・立命館大学教授は次のように指摘します。「『国が直轄土木工事にICTの全面活用を義務化したから取り組む』という性質のものではありません。本質を理解して社員の待遇改善や経営の安定化につなげられる会社と、そうでない会社とで、今後、結果として大きな差が生じることは避けられないと思います」。

 特集記事で取り上げたICTの活用事例も、「i-Constructionが始まったからやってみた」というのではなく、あくまでも自社の生産性を高めることを念頭に置いた取り組みです。それが結果的に、i-Constructionの理念と一致したとも言えるでしょう。生産性向上への取り組みが遅れている会社は、単にi-Constructionを“こなす”のではなく、生産性を高める一つのきっかけとして、利用していければいいと思います。