復興庁のデータによれば、今年1月末時点での東日本大震災からの本格復旧・復興の進捗率は、直轄国道や直轄河川、下水道、港湾などで98%を超えました。被災者の生活再建はまだ道半ばですが、交通・生活インフラに関しては、少なくとも数字上は復興がかなり進んできたと言えるでしょう。

 復旧・復興は手探りのことが多く、ここに至るまでの5年間、関係者は試行錯誤を重ねたことと思います。その試行錯誤の道のりをきちんと整理して、読者の皆さんに役立ててもらうことが、我々の使命だと考えています。

 日経コンストラクション3月28日号では、前号(3月14日号)に引き続き、特集「『3.11』後の新潮流50」の後編をお届けします。かつてない規模で行われた復旧・復興から、数多くの新しい知見が得られました。その中でも、今後の防災事業や災害対応での潮流となるような事柄を選び出し、解説しました。

日経コンストラクション2016年3月28日号特集「『3.11』後の新潮流50・後編」から
日経コンストラクション2016年3月28日号特集「『3.11』後の新潮流50・後編」から
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 これまでの災害復興と大きく異なるのは、被害の範囲がかつてないほど広大だった点です。建設会社の数や業界で働く人が大幅に減少したタイミングで、膨大な量の事業を同時に進めていく必要がありました。

 そのための工夫が凝縮されているのが、国土交通省東北地方整備局が手掛ける復興道路・復興支援道路の事業です。工事の「質」と「量」を同時に追い求めるために、新しい取り組みに精力的にトライしました。

 「質」を追求する取り組みの一つが、トンネルの覆工コンクリートの工夫です。凍害が発生しやすい厳しい条件の下、維持管理の手間をできるだけ軽減するために、コンクリートの高品質化を追求しています。具体的には、凍害防止に有効な「空気量の確保」を突き詰めました。復興支援道路の一つである宮古盛岡横断道路の新区界(しんくざかい)トンネルでは、実施工さながらの「実機試験」を繰り返し、時間をかけて最適なコンクリートの配合を見つけた末に打設に臨みました。今年2月には、片側の坑口100m区間の打設が完了。初期ひび割れや色むらなどがない良質なコンクリートを打設できたといいます。

 一方、「量」を追求したと言えるのが、事業促進PPP(官民連携)でしょう。通常は発注者が行う業務の一部を民間が肩代わりすることで、多くの事業を同時に発注することが可能になりました。そのため、復興道路・復興支援道路では、「事業化から10年程度」という当初の開通目標よりも早いタイミングでの開通目標が続々と公表されています。

 そして、こうした「東北発、復興発」の取り組みは、他の地方整備局などに広がる兆しを見せています。近い将来、日本が再び大きな地震に襲われることは避けられないでしょう。復興事業で生まれた様々な工夫を“資産”として、今後の事業に生かしたいものです。