2020年に4000万人、30年に6000万人――。昨年3月、政府が決定した「明日の日本を支える観光ビジョン」に盛り込まれた訪日外国人旅行者(インバウンド)の目標値です。初めて1000万人を突破したのは13年。そこからわずか2年で2000万人弱にまで急増した実績もあり、あながち荒唐無稽な目標とも言い切れません。

 国を挙げて盛り上がりを期待するインバウンド需要ですが、建設産業への恩恵はあるのでしょうか。ホテルや旅館、レジャー施設の整備などは頭に浮かびますが、“箱モノ”以外は思い描きにくいのではないでしょうか。そこで日経コンストラクションでは、3月27日号で特集「インバウンドとどう絡む?」を企画し、インバウンド需要に対して建設産業は何ができるのか、考えてみました。

日経コンストラクション2017年3月27日号特集「インバウンドとどう絡む?」から
日経コンストラクション2017年3月27日号特集「インバウンドとどう絡む?」から
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 例えば、外国人を迎える玄関口の整備。特に、最近よく話題になるのが、海外からのクルーズ船への対応です。私もそうですが、日本人はクルーズ船に対して「金持ちの道楽」というイメージを持つ人が多いようで、インバウンドが増加するからクルーズ船に対応しようと言われても、いまひとつピンと来ない感じがします。しかし、クルーズ船で訪日する人は、13年から16年の3年間で10倍以上に急増。クルーズ船の大型化も進んでいます。

 ところが、こうした動きに日本の港は対応しきれていません。そこで、例えば横浜市や静岡市、福岡市どで、新たな埠頭の整備が進みつつあります。なかでも、街づくりとの連携を図りながら事業を進めようとしているのが静岡市です。世界文化遺産の富士山を抱え、高速道路や新幹線、空港がすぐそばにあるという地の利を生かし、旅客ターミナルや商業施設などの整備を考えています。岸壁の整備はもちろんですが、併せて進める街づくりについても、建設産業の知恵が生かせる分野です。

 建設コンサルタント会社は最近、地方創生の動きの中で、観光関連の業務を手掛ける例が増えてきています。街の魅力を掘り起こして発信し、街のブランド価値を高めるといった内容です。インバウンド対応に当たっては、情報発信を多言語化するなど、これまでとは違った工夫は必要になりますが、基本的な考え方は変わりません。一つひとつの業務の規模が小さいケースもありますが、今後、需要が大きく伸びることが確実な市場です。建設市場の先細りが予測されるなか、有力な“メシの種”と言えるかもしれません。

 ただし、インバウンドに限りませんが、新規分野に打って出るときはライバルも多いもの。シンクタンクや旅行会社などとの競合は必至です。その気がある会社は少しでも早く参入し、経験を積んでいくことが必要でしょう。