1995年の阪神大震災では、無残に崩れ落ちた高架橋の姿が繰り返し報じられ、社会に、そして土木技術者に大きなショックを与えました。しかし、それを教訓に、土木分野では様々なことが変わりました。例えば橋について、道路橋示方書では耐震設計に関する考え方が改められ、既設橋脚の耐震補強も進みました。その効果もあって、東日本大震災では、地震動による橋の被害は比較的少なかったと言えます。

 他方、東日本大震災での津波被害は、想定をはるかに超えるものでした。阪神大震災の時にそうだったように、その教訓を今後に生かさなければなりません。

 東日本大震災において、土木分野で何が変わったのか。日経コンストラクションでは3月14日号と3月28日号の2号にわたり、震災発生からの5年間を総括する意味で、特集「『3.11』後の新潮流50」を企画しました。前編となる3月14日号では、東日本大震災をきっかけに変わった「防災の常識」についてまとめました。

日経コンストラクション2016年3月14日号特集「『3.11』後の新潮流50・前編」から
日経コンストラクション2016年3月14日号特集「『3.11』後の新潮流50・前編」から
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 最も大きい変化は、津波に対する備え方でしょう。阪神大震災がレベル1・レベル2地震動を導入するきっかけとなったように、東日本大震災ではレベル1・レベル2津波という考え方が明確になりました。例えば、最大クラスのレベル2津波に対しては、防潮堤などによって減災を図りつつも市街地への浸水は許容し、避難体制の充実を図るといったソフト対策で住民の命を守る考え方が示されました。

 津波のシミュレーション技術も、震災後に格段に進歩しています。過去の地震動から津波の規模を想定するのが基本ですが、過去の事例をベースにしている限り、どんなにシミュレーションの精度が高まっても「想定外」はあり得ます。そこで、実際に発生した津波をいち早く観測し、その情報から波源を決めて伝播計算をすればいいのではないか――。こうした考えのもと、東北大学災害科学国際研究所らの研究チームは、地震発生から最短10分で浸水範囲を住民に届けられるシステムの開発にこぎ着けました。

 3月14日号の特集記事ではこれらの事例をはじめ、主に防災技術に関する22の新潮流を描きました。いずれも、今後の防災事業の在り方を変える可能性を秘めた新たな技術や考え方です。後編となる3月28日号では、復旧・復興にまつわる28の新しい潮流を紹介する予定です。ご期待ください。