昨年11月に発生した博多駅前でのトンネル陥没事故。場所が大都市の繁華街だったことに加え、短期間での復旧、市長が先頭に立った事後対応といった“絵になる”話題が多く、テレビや新聞を大いににぎわしました。

 事故から4カ月が過ぎ、一般メディアの関心は薄れてきたようですが、土木技術者の皆さんはそうではないでしょう。肝心の事故原因をはじめ、まだ多くのことが分かっていません。日経コンストラクションでは、事故の技術的な側面を明らかにするために、有識者やトンネル技術者に取材し、3月13日号で特集「博多陥没事故の警鐘」をまとめました。

日経コンストラクション2017年3月13日号特集「博多陥没事故の警鐘」から
日経コンストラクション2017年3月13日号特集「博多陥没事故の警鐘」から
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 ポイントとなるのは、トンネルの天端付近の難透水層。頁岩(けつがん)を主体とする地層ですが、風化が進んだ脆い岩質です。層厚が一定でなく、設計上の2mの岩かぶりを確保できない可能性もありました。それでも、福岡市は過去の地下鉄工事で岩かぶり2m未満の区間をNATMで掘削したこともあって、同工法の採用に至りました。

 もちろん、発注者も施工者もリスクを認識し、多くの手を打っていました。市は入札に際し、NATM区間の掘進管理についての技術提案を求めています。受注した大成建設JVも難工事を承知で臨み、万全を期してベテラン職員を現場に配置していたようです。さらに、追加ボーリングを実施し、その結果を受けてトンネルの断面形状を変更したり補助工法を追加したりと、設計変更を繰り返しました。しかし、事故を防ぐことはできませんでした。

 ある建設会社のトンネル技術者は、「今にして思えば、コストを掛けてでも岩盤の上の未固結滞水砂層に止水注入をしておけば良かったのかもしれない」とコメントしています。博多の現場は、地層が不確かで、事故が発生した場合の影響が重大という、潜在的なリスクが大きい場所だったと言えます。こうした条件の現場では、多少のオーバースペックになったとしても、それなりの金を掛けて事前に対策を講じておくことが必要ではないでしょうか。

 これから工事が本格化するリニア中央新幹線でも、山岳トンネルの掘削には、基本的にNATMが採用されることになりそうです。片や都市部の地下鉄、片や土かぶりの大きい山岳トンネルと条件は全く異なりますが、リスクの捉え方や管理の在り方について、博多の教訓を生かしてほしいものです。