政府が定めた東日本大震災の「集中復興期間」が、あと1カ月余りで終わります。震災発生からほぼ5年が経過し、被災地の復旧・復興はどこまで進んだのか。土木はどんな役割を果たしたのか――。日経コンストラクションではこうしたテーマについて、3号連続で特集記事を企画しました。

 第一弾となる2月22日号の特集は、「7000人の戦線、福島第一原発」。記者による現地取材も交えながら、福島第一原発の事故処理のこれまでと今後について描きました。

日経コンストラクション2016年2月22日号特集「7000人の戦線、福島第一原発」から
日経コンストラクション2016年2月22日号特集「7000人の戦線、福島第一原発」から
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 福島第一原発では現在、事故の収拾に向けて様々な作業が行われていますが、記事では以下の三つに焦点を当てました。

 まず、原子炉建屋への地下水流入を防ぐ凍土遮水壁の造成。凍結のための配管工事がほぼ終わり、運用開始の正式なゴーサインを待つばかりというところまで来ました。二つ目が、3号機原子炉建屋の燃料取り出し。がれきの撤去を終え、燃料を取り出すために建屋を覆うカバーの設置が間もなく始まります。そして三つ目が、1号機のがれき撤去。こちらは建屋を覆っていたカバーの解体中で、2016年度中にもがれき撤去が始まる見通しです。現場には多くの建設会社が入り、1日に平均7000人弱の作業員が作業に当たっています。

 現場での作業は、被曝との闘いです。放射線量が高い地点での作業を減らすため、各社は技術の粋を集め、できるだけ人手を介さずに作業できる方法を編み出しています。3号機の原子炉建屋のカバー設置の場合は、部材を大型ユニット化して遠隔操作で吊り込みます。接合は人手で行いますが、その箇所数を減らし、かつ現場で複雑な作業が発生しないピン接合を採用しています。

 福島第一原発での本番に臨む前に、施工者の鹿島は、部材のストックヤードである小名浜港で入念に予行演習を実施しました。その結果を踏まえて作成したのが、「施工手順ワンシート」と呼ぶ簡易マニュアルです。

 例えば、とびが鉄骨部材に玉掛けする際、吊り荷の形状に応じてチェーンブロックの長さを調整する必要がありますが、現場で調整に手間取ると被曝線量が大きくなってしまいます。そこで、予行演習の際に計測しておいたチェーンブロックの長さをシートに記しておき、現場では数値のとおりに調整するだけで、安全に揚重できるようになるという仕掛けです。被曝を抑えるために、現場で考えたり判断したりすることを極力なくそうという発想です。

 「考える」ことの重要性は、本誌でもコラム「ドボク塾」などを通じてお伝えしてきているとおりです。マニュアル化はそれと対極にあるわけですが、マニュアル化して「考えない」ことこそが最適解である現場もあるのだと、改めて気付かされました。もちろん、現場で考えなくても済むように、現場に入る前に多くのことを考えた末、出てきた結論なのだと思います。