建設業における労災の死亡者数は2016年に初めて300人を下回り、過去最低を記録しました。ところが今年は減少傾向から一転、増加の兆しを見せています。1月~9月の死亡者数は212人(速報値)。これは、16年の同期間の死亡数192人(確定値)から1割増えています。

 要因の1つが墜落事故の多発です。8月、東京・丸の内のビル建設現場で3人が死亡。9月には、新名神高速道路で橋梁の吊り足場から1人が墜落、翌日には東海北陸自動車道でも作業員が仮設備から落ち、いずれも亡くなりました。一連の事故を受けて国土交通省は9月に、建設関係の団体の代表者を集め、異例の注意喚起を行いました。

 建設業界の危機感が高まっているなか、日経コンストラクションでは12月11日号で特集「またもや死亡事故」を企画しました。次なる事故を防ぐには、事故の事例に学ぶことが欠かせません。特集記事では、今年発生した死亡事故の状況を詳しく取材し、事故の背景やメカニズムを解説しています。

日経コンストラクション2017年12月11日号特集「またもや死亡事故」から
日経コンストラクション2017年12月11日号特集「またもや死亡事故」から
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば、東海北陸自動車道での事故の場合、作業員が安全帯のフックを掛け忘れていたうえ、フェールセーフとなるはずの転落防止ネットを、作業の邪魔になるという理由で取り外していました。大阪府吹田市での下水道工事の事故では、移動式クレーンで下水管を1点吊りしたまま走行して地下に吊り下ろしたところ、土留めと接触。引っかかった下水管の位置を調整しようと土留め内に下りた作業員に、不安定だった下水管が激突しました。このように、明らかに危険と分かる行為が引き起こす事故が、相変わらず発生しています。

 では、こうした事故を防ぐには、どんな対策を実施すればいいのか。チェックリストの作成、KY(危険予知)活動の充実といった手法は重要ですが、従来こうした対策だけで事故を防ぎきれていなかったのも現実です。そこで特集では少し視点を変えて、新技術を使って事故を防ごうという取り組みを紹介しています。

 例えば、VR(仮想現実)の活用。メガネ型の情報端末、ヘッドマウントディスプレーをかけて、危険な場面を体感するというものです。また、IoT(モノのインターネット)技術を利用し、人の接近に伴って重機の動きを停止したり、危険な範囲での作業を自動で制御したりするシステムも実用化されています。そのほか、これまで個人用保護具として主流だった「胴ベルト」に代わり、フルハーネス型の保護具の使用が義務化される方向にあります。安全意識を高めるだけでなく、こうした新しい技術や製品を積極的に取り入れることが、事故防止にはきっと役立つと考えます。