下の写真、何をしている場面だかお分かりでしょうか? 事務所の室内で、黒めがねをかけた人物が茶色と灰色の物体を見上げています。

日経コンストラクション2017年10月9日号特集「まだCIM始めてないの?」から
日経コンストラクション2017年10月9日号特集「まだCIM始めてないの?」から
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 これは、室内で橋の3次元モデルをチェックしている様子です。黒めがねは「マイクロソフト・ホロレンズ」という映像を見る端末。これをかけると、現実空間上に3次元モデルを映して見ることができるのです。MR(複合現実)と呼ばれ、仮想空間しか見えないVR(仮想現実)と異なり、足元を気にせず様々な角度から3次元モデルを眺めることができる技術です。

 今年3月、国土交通省は「CIM導入ガイドライン」を発表し、CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の導入と活用を円滑に進めるための考え方や指針を示しました。CIMの活用が加速するタイミングを捉え、日経コンストラクションでは10月9日号で、特集「まだCIM始めてないの?」を企画しました。

 CIMとは、建設事業の川上から川下まで一貫して3次元モデルを共有し、事業の効率化を図る取り組みです。計画、設計、施工、維持管理の各段階で、必要なデータを付加しながら同じ3次元データを使い回すのが理想ですが、まずはそれぞれのプレーヤーが、「できるところから」始めています。

 特に、導入でメリットが大きい建設会社が積極的です。冒頭の「ホロレンズ」は、新潟県の小柳建設の事例。3次元モデルは工程表とも連動しているので、離れた場所にいる人同士が完成形のイメージを共有しながら、工程などの打ち合わせすることができます。一方、“ローテク”も交えて効率化しているのは、大分県の川原建設。複雑な形状を持つ護岸の出来形を3次元モデル化するのが難しかったので、まず出来形の模型を作成し、それを3Dスキャナーで計測して3次元モデルを得るという、言わば逆転の発想で効率化を図っています。特集記事では、こうした様々なCIM活用事例を紹介しています。

 さて、CIMの活用が進んできたところで思い出すのは、1996年に国が基本構想を発表した建設CALS(キャルス)です。これも、電子データの活用で社会インフラのマネジメントを効率化する目的で始まりました。その後、電子入札や電子納品は定着したものの、ライフサイクルを通じたデータ共有という目的は果たせないままでした。

 当時に比べると、ICT(情報通信技術)は格段に進歩し、環境は整っています。ただし、いくら建設会社が頑張っても、基準や制度づくりなどを国交省がけん引しなければ、データの「一気通貫」は実現しません。生産性向上が至上命題となり、国交省のスピード感や「本気度」も大きく高まっているのは間違いありませんが、果たして成否やいかに――。