日本は昨年、熊本地震や北海道・東北豪雨など大きな災害に見舞われました。九州中部は地震が少なく、北海道や東北東部は豪雨が少ないと言われていた地域でした。全国的に、自然災害のリスクがこれまで以上に高まっており、対応は急務です。

 とはいえ、防災事業には困難がつきまといます。費用や管理できる人が足りない、施工スペースが狭いといった条件面での制約に加え、そもそも従来のやり方では高まる災害リスクに対処できないといったケースも珍しくありません。

 こうした悩みを技術や仕組みの工夫で乗り越えている事例もあります。日経コンストラクション5月22日号では、特集「防災の処方箋」を企画し、現場ごとの“症状”に応じてうまく対処している取り組みを取材しました。

日経コンストラクション2017年5月22日号特集「防災の処方箋」から
日経コンストラクション2017年5月22日号特集「防災の処方箋」から
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 代表例が、「ロッキング橋脚」を持つ橋の地震対策です。昨年の熊本地震では、九州自動車道の上に架かる府領第一橋が高速道路上に落橋するなど、大きな被害が出ました。

 橋脚に鉄筋コンクリートを巻き立てて、壁式の橋脚に変更するといった対策が一般的ですが、広い作業ヤードが必要です。しかし、ロッキング橋脚を持つ名神高速道路の追分橋(大津市)では、橋脚が国道と鉄道の間などに位置しており、施工スペースを確保できませんでした。

 そこで考え出したのが、水平力を支持できないロッキング橋脚を、鋼コンクリート複合橋脚に造り替えたうえで、免震支承を用いて上部構造の慣性力を受け持たせるという対策です。荷重を仮受けするベント(仮支柱)を設けるスペースもなかったので、旧橋脚を残した状態で新たな橋脚を造り、新橋脚で荷重を仮受けしてから旧橋脚を撤去するという複雑な方法を採用しました。現場で困っている症状に応じて、適切な構造や施工方法を組み合わせて対処した例と言えるでしょう。

 “治療法”を抜本的に変えて、困りごとを解決した例も取り上げています。堆砂容量の9割近くが土砂で埋まった小渋ダム(長野県中川村)ではこれまで、上流に設けた貯砂堰からの砕石や貯水池の掘削などで、かろうじて貯水容量を保ってきました。しかし、そうした“対症療法”に限界があります。そこで採用したのが、洪水時に土砂を貯水池に入れずに迂回させるバイパストンネルの設置でした。144億円の事業費を要しましたが、これによってダムの寿命を60年延ばせると、管理者の国土交通省は試算しています。

<訂正> 最後の段落で、国土交通省が土砂バイパストンネルの整備に投じた事業費を、1400億円から144億円に訂正しました。(2017年5月19日17時20分)