入札を巡る不正と言えば、まず思い浮かぶのが談合です。最近でも、東日本大震災の復旧を舞台とした舗装工事で談合が発覚するなど、依然として根絶されていません。ですが、独占禁止法の改正による罰則強化などを受けて、以前に比べれば談合しにくくなっているのは事実でしょう。

 こうした状況のなかで、入札を巡る不正が減ってきたかと言えば、そうではないようです。最近は、新たなパターンの入札犯罪が目立つようになってきました。その一例が、価格情報の漏洩を巡る贈収賄事件です。

 日経コンストラクションでは4月24日号で、特集「入札犯罪の“新潮流”」を企画しました。ここ数年で急増してきた新たな入札犯罪の構図を解き明かします。

日経コンストラクション2017年4月24日号特集「入札犯罪の“新潮流”」から
日経コンストラクション2017年4月24日号特集「入札犯罪の“新潮流”」から
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 背景の一つが、予定価格公表のタイミングです。改正品確法では、予定価格を入札公告時に明らかにする「事前公表」ではなく、入札後に開示する「事後公表」にすることを原則としています。これによって、受注希望者が事前に価格情報を聞き出そうとする動きが活発になりました。不正な手段で予定価格を聞き出し、最低制限価格を類推して入札するというパターンです。特集記事で取り上げた千葉市の事件では、NJS(旧・日本上下水道設計)の部長が、付き合いのあった市の係長に働きかけ、価格情報を得ていました。

 総合評価落札方式による入札では、少し違うパターンも見られます。他社の技術評価点を聞き出し、それをもとに確実に落札できる入札価格を設定して入札するというものです。舞台となったのは、国土交通省中部地方整備局。国交省の職員が、「飲み仲間」となった瀧上工業の支店長らの接待攻勢に負け、他社の技術提案書を渡してしまいました。

 今から20年ほど前、談合事件が相次ぐなかで、発注者と受注者の無用の接触を避けようとする動きが強まりました。発注機関の事務所では部外者の立ち入りを禁止し、その代わりに入り口に名刺受けが並べられ、そこに建設会社のアルバイトが自社社員の名刺の束を次々に放り込んでいく――。本誌ではかつて、こんな状況を取材したことがありました。襟を正したことは間違っていませんが、発注者からは、「建設会社との接触が減って、新技術に関する情報が入ってこなくなった」といった愚痴を聞いたこともあります。

 受発注者間で信頼関係を築くことは重要です。しかし、それが高じて、例えば受注者に無理な依頼を聞いてもらって「貸し借り」の関係になれば、情報漏洩の求めに応じざるを得ない心理状況になるかもしれません。法に触れる触れないに関わらず、自分たちできちんと一線を引くことができなければ、建設業は再び社会の信頼を失う結果になります。

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