電気や医療などの分野に比べて動きが少ない土木分野の技術。それを大きく変える可能性を秘めているのがICT(情報通信技術)の活用ですが、もう1つ、我々が注目しているものがあります。それは「材料」です。土木材料というと、土木分野の中でもやや地味な印象がありますが、実は様々なイノベーションが起こっている分野なのです。日経コンストラクションでは、4月10日号で特集「夢の新材料」を企画し、土木材料の現状と、材料が変える土木の未来について見通してみました。

日経コンストラクション2017年4月10日号特集「夢の新材料」から
日経コンストラクション2017年4月10日号特集「夢の新材料」から
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 土木の材料といえば圧倒的にコンクリートと鉄ですが、主役の座をうかがう材料が少しずつ台頭してきました。特集記事ではそうした素材をたくさん取り上げています。ここでは「繊維強化プラスチック(FRP)」を紹介しましょう。

 FRPは軽く、強く、さびないという特性があり、コンクリートに混入する短繊維や耐震補強用のシートなどとして使われています。一方、過去にはFRPを構造部材に使った歩道橋も架設されましたが、コストの高さや成形の難しさなどから、構造部材としての本格的な普及には至っていません。

 ところが、FRPの製造に新たな「樹脂」を使うことで、状況が変わりつつあります。これまでは、加熱して硬化したら再び熱を加えても変形しない「熱硬化性」樹脂が使われていました。それが、硬化後でも加熱すると軟化する「熱可塑性」樹脂を使うことで、成形の手順を大きく削減できることが分かったのです(仕組みについてはここでは説明しきれませんので、ぜひ特集記事をご覧ください・・・)。当然、コストも下がります。従来の課題だったコスト高と成形の難しさの両方を、一挙に解決できるというわけです。

 活用分野の一つとして期待されているのが仮設材。これまでもFRP製の仮設材はありましたが、傷が付くと手直しが難しく、普及を阻んでいました。しかし、熱可塑性なら修復可能で、使い回しがしやすくなります。本設よりも採用のハードルが低いうえ、軽くて一度に大量に運べるという利点があるのですから、一気に普及する可能性もあります。

 技術開発を主導する金沢工業大学の鵜澤潔・革新複合材料研究開発センター所長は、次のように言います。「鉄の歴史を見ても、江戸時代に日本刀に使われていた鉄が土木構造物になるなど誰も想像できなかった。溶鉱炉で鉄が連続して成形できるようになり、どうやって設計すれば良いか200年考えて、ようやく今日に至る」。「プラスチックや繊維が地上の構造物の主材料になることは、誰も想像していない。しかし、後20年もすれば、それは現実になると思う」――。もしそうなれば、設計法も施工法も一大転換することになるでしょう。将来、新たな材料が土木の姿を変えることになるのかもしれません。