米国・ワシントンDCで、ミース・ファン・デル・ローエが設計した図書館の大胆な改修計画が動いている。本日発売する書籍「世界のリノベーション」のなかで紹介した「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア記念図書館」だ。ここでは、書籍に収録しきれなかった改修設計担当者、メカノアーキテクテン(オランダ)のフランシーン・フーベン氏へのインタビュー全文を掲載する。
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――マーティン・ルーサー・キング・ジュニア記念図書館の改修に際して、何が最も大きなチャレンジでしたか?
このプロジェクトで最も興味深い点は、建物が1972年に建てられたミース・ファン・デル・ローエの作品であり、ミースはその当時では極めて革新的な建築家であったことです。事業主はワシントンDCの中央図書館で、当時、立ち入るのに危険なワシントンDCのダウンタウン地区に図書館を建てるに当たり、ミースが選ばれました。
図書館は「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア」の名を冠していますが、これはいわば偶然でした。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが1968年に暗殺されたからです。もともと図書館はマーティン・ルーサー・キング・ジュニアのためにデザインされた訳ではなかったのです。
その後、黒人の住民によるマーティン・ルーサー・キング・ジュニアにちなんだ建物を獲得するための運動が起こり、その結果、選ばれた建物がミース設計の図書館でした。ミースもすでに故人となっていました(1969年に死去)。
このような経緯から、私がこの改修で一番行いたかったことは、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアのための図書館を本当の意味で実現するということでした。
改修において、私の両肩には、片方にミース・ファン・デル・ローエが、もう片方にはマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが乗っていました。両者はともに譲れない重要な存在で、ときに葛藤がありましたが、私自身、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの精神の方がより重要だとの結論に達しました。
――大胆なご意見ですね。
というのはミース・ファン・デル・ローエ作のこの建物は、完璧ではなく、多くの可能性を秘めてはいるものの、地元住民から嫌われていたのです。外側からは、大変透明度の高い建物ですが、内側は、レンガの壁で仕切られ、自然光が入らず、快適性に乏しかった。空調設備もお粗末で、入り口も歓迎的な雰囲気ではなく、ここで働く人々は、30年間も自然光なしの、暑過ぎたり、寒過ぎたりする心地のよくない室内環境で、仕事をしなければならなかったのです。
こうした弱点を克服して、モダンな図書館としての快適な環境に変える点で、今回の改修設計は極めて成功していると思います。もちろんそのことが、ミース・ファン・デル・ローエへの敬意を表することにもつながるのです。