床高上げると被害額が93%減少

 「水害対策は土木事業で進めるべきで、家づくりで対応できない」と考える読者は少なくないだろう。確かに、地盤が崩れて土石流や流木を伴ったりする大規模な水害に対しては土木事業による対応が不可欠で、建物側での対策は難しい。

 だが、下水処理能力を超えた集中豪雨で水が溢れる内水氾濫や、じわじわと水位が上昇するような河川氾濫などの水害に対しては「建物側でも対処すべき」だという意見がある。芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科の中村仁教授は次のように指摘する。「気候変動で従来の想定を超えるような洪水が起こりやすくなっている。河川管理だけでなく都市計画や建築レベルでの対策とも連携して水害リスクを低減する必要がある」

芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科の中村仁教授。「大都市近郊における河川管理と都市計画の連携による水害リスク低減策」という研究成果をまとめた(写真:日経ホームビルダー)
芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科の中村仁教授。「大都市近郊における河川管理と都市計画の連携による水害リスク低減策」という研究成果をまとめた(写真:日経ホームビルダー)
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 その水害対策の1つが、基礎高を上げて床の高さを上げる方法だ。中村教授は16年5月、「大都市近郊における河川管理と都市計画の連携による水害リスク低減策」という研究成果をまとめた。水害リスクを低減するために、河川管理だけでなく都市計画とも連携した実効性のある具体方策を検討し、提案するというものだ。その過程で、床高を上げる対策が水害リスクの低減に対して実効性が高いことを示した。

 この研究では、ある河川地域において住宅や事務所などの建物で床高を上げた場合に、どの程度水害被害額を低減できるのかをシミュレーションした。10年に1度の確率から1000年に1度の確率までの降雨量9パターンを用意し、それぞれ、対策していない場合と基礎高を0.5m上げた場合、1m上げた場合の3パターン、計27パターンの年間被害額を推定した。その結果、ある地区では床高を上げる対策を講じた場合の年間被害額期待値(EAD)が93%減少した。

芝浦工業大学の中村仁教授は、床高を上げた場合にどの程度水害被害額を低減できるのかをシミュレーションした。10年に1度の確率から1000年に1度の確率までの降雨量9パターンを用意し、それぞれ、対策していない場合と基礎高を0.5m上げた場合、1m上げた場合の3パターン、総計27パターンの年間被害額を推定した(資料:中村仁)
芝浦工業大学の中村仁教授は、床高を上げた場合にどの程度水害被害額を低減できるのかをシミュレーションした。10年に1度の確率から1000年に1度の確率までの降雨量9パターンを用意し、それぞれ、対策していない場合と基礎高を0.5m上げた場合、1m上げた場合の3パターン、総計27パターンの年間被害額を推定した(資料:中村仁)
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 「地域によって降雨量や水害時の浸水深などの条件は異なる。そのため、一概に何センチメートル基礎高を上げるのが効果的なのかは示せない。それでも水害を意識して床高を上げれば水害リスクを抑えるうえで効果的だ」(中村教授)

 ただ、床高を上げるような建築的な視点での水害対策を進めるには、大きな課題が3つある。

 次の記事「滋賀版・豪雨対策を見習え」では、その3つの課題について見ていく。