宗像大社(福岡県宗像市)の宮司である葦津敬之(あしづ・たかゆき)氏は2017年7月19日、インバウンド市場の総合展示会「インバウンド・ジャパン2017」(7月19~21日、会場:東京ビッグサイト、主催:日経BP社、共催:ジャパンショッピングツーリズム協会)で基調講演を行い、7月9日に世界文化遺産への登録が決まった「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県宗像市・福津市)について、登録に向けたこれまでの取り組みを語った。

宗像大社宮司の葦津敬之氏(写真:清野 泰弘)
宗像大社宮司の葦津敬之氏(写真:清野 泰弘)
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 講演では初めに、宗像地域の歴史について、古事記や日本書紀の記述をベースに、独自の研究・考察の内容も踏まえて紹介した。それによれば、宗像は日本で最初に開国した海外交易の要所であり、当時の海外との関係性は、大陸から学ぶだけでなく、宗像側からも文化の発信があったとみられる。特に造船や航海に関わる分野では「玄界灘の三角波を乗り切れるだけの高度な技術があったのではないか」とした。

 世界遺産登録に向けた取り組みについては、主に「宗像国際環境100人会議」の活動を紹介した。宗像地域では近年、周辺海域の海水温度が上昇するなど、環境問題が深刻化。その解決を目指す姿勢で国内外から注目を浴びた。「本来なら世界遺産への登録を目指すときに、海の環境悪化は前面に出したくないものだが、そこをあえて率直に取り上げ、海の再生に取り組む姿勢を見せた」(葦津氏)。同会議には、東ティモールの元大統領でノーベル平和賞受賞者のジョゼ・ラモス=ホルタ氏など、国内外の有識者が集まった。

 世界遺産登録までの過程では、2017年5月にユネスコの諮問機関であるイコモスから、日本の推薦していた8つの構成資産のうち、4つを除外するよう勧告を受けた。勧告からユネスコの世界遺産委員会での審議までの取り組みについて葦津氏は、「委員国の21カ国で構成される委員会での審議に向けて、外務省とともに逆転登録に向けたシナリオを練った」と振り返った。

 具体的には「8つの構成資産を、共通する3つのキーワードで説明し、ロジックを固めた」(葦津氏)。その3つとは、Spiritual(霊性)、Animism(精霊信仰)、Ecology(生態学)。「神社を宗教という言葉で説明すると誤解を生じると英国の友人が教えてくれたので、Spiritualという言葉を選んだ。併せて、宗像に根付く自然崇拝(Animism)、環境問題への取り組み(Ecology)をアピールした」

 委員会では8件すべての登録が認められた。葦津氏は8件すべての登録決定について「ハコモノ(建物)を対象にしがちな世界遺産に、自然の循環に通じる神道の連続性を推して、委員会に理解されるものかどうか不安だったが、特にアフリカの人々によく理解してもらえたようだ」との考えを述べた。

 今後については「観光振興一辺倒ではなく、環境問題への取り組みと観光とを融合させていく方向を模索している」と説明。葦津氏は物理学者のアルバート・アインシュタインが来日の際に残したとされる言葉が「ヒントになる」として、講演の最後に朗読した。「生活の芸術化、個人に必要な謙虚さと質素さ、日本人の純粋で静かな心、それらのすべてを純粋に保って忘れずにいてほしい」との言葉である。

宗像大社宮司の葦津敬之氏による基調講演の様子(写真:清野 泰弘)
宗像大社宮司の葦津敬之氏による基調講演の様子(写真:清野 泰弘)
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