インバウンド市場の総合展示会「インバウンド・ジャパン2017」(主催:日経BP社)は2017年7月20日、開催2日目を迎え、「ガストロノミー」による国際交流をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。ガストロノミーとは、文化と料理の関係を考察することだ。

 登壇したのは山形県鶴岡市企画部食文化創造都市推進課の伊藤賢一氏、辻調理師専門学校企画部メディア・プロデューサーの小山伸二氏。モデレータはXPJP代表取締役社長の渡邉賢一氏が務めた。

山形県鶴岡市企画部食文化創造都市推進課の伊藤賢一氏。「羽黒山伏」でもある伊藤氏は山伏の装束で登壇した(写真:清野 泰弘)
山形県鶴岡市企画部食文化創造都市推進課の伊藤賢一氏。「羽黒山伏」でもある伊藤氏は山伏の装束で登壇した(写真:清野 泰弘)
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辻調理師専門学校企画部メディア・プロデューサーの小山伸二氏(写真:清野 泰弘)
辻調理師専門学校企画部メディア・プロデューサーの小山伸二氏(写真:清野 泰弘)
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 鶴岡市は2014年12月、日本で初めて、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の食文化創造都市に登録・認定された。伊藤氏によれば、鶴岡市は日本海に面した庄内浜や2000m級の山々、川、平野など地形が多様で、食材も伝統野菜を中心に多彩だ。また、1400年以上にわたり信仰を集める山岳修験の聖地「出羽三山」には精神文化と結びついた精進料理が伝わる。家庭にも「大黒様のお歳夜」と呼ばれる行事などでの行事食・伝統食が現在も受け継がれ、独自の食文化が築かれてきた。

XPJP代表取締役社長の渡邉賢一氏(写真:清野 泰弘)
XPJP代表取締役社長の渡邉賢一氏(写真:清野 泰弘)
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 近年では2015年のイタリア・ミラノ国際博覧会(万博)に鶴岡市として出展し、地元の食文化を世界にアピール。この万博出展をきっかけに、イタリア食科学大学と連携し、同大学の学生が鶴岡をたびたび訪れて地域の食文化を体験・学習するなど、国際交流も活発化している。

 2017年5月には、鶴岡市と辻調理師専門学校が地域の食文化を支える人材の育成などを目指す包括連携協定を結んだ。同校の小山氏は、「鶴岡市は自治体や民間事業者、大学など、食文化の担い手同士が風通しよく連携している」と評価する。同校が他の自治体と進める同様の活動においても「お手本にする存在」だという。

 辻調理師専門学校グループでは、在校生約3200人の1割近くを留学生が占める。また、フランスにも学校を構えている。小山氏は海外から見た日本の食文化の魅力は、必ずしも日本人が想像する通りではないと指摘する。「留学生たちは伝統的な和食だけを学びに来ているのではなく、むしろ明治以降、東アジアにあって西洋的な要素も多分に取り入れた食文化に高い関心を抱いている」。そうした傾向を踏まえて、「古いものと新しいもの、先端的なものと伝統的なものをうまくかき混ぜながら、食文化を通じたインバウンドの可能性を探りたい」と期待する。

 伊藤氏も、イタリアから迎えた学生たちの反応について、同様の見方をする。「出羽三山の精進料理に伝わる、山菜を1年中食べられるように保存する技術の話などをとても熱心に聞いている。しかも、それを使って世界の問題をどう解決できるかという観点を持っている。例えば、塩漬け・発酵の技術などを珍しがって、食料危機への対策に応用できるんじゃないかと話していた」と語る。