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一条工務店が積水ハウスに迫る理由

2017/07/21

日経ホームビルダー



日経ホームビルダーは2017年7月に書籍「ホントは安いエコハウス」を発行した。省エネ住宅の設計を得意とし、設計者や工務店などに向けたセミナーの講師も数多く務めてきた松尾和也氏が執筆している。本書では、「エアコンは高くつく」「受注のための設計案は数で勝負」「設計変更は当たり前」といった設計や施工のプロでも陥ってしまう勘違いを紹介。本当の省エネ住宅を実現するためのポイントを指南している。日経ホームビルダーの好評連載「脱!なんちゃって省エネ住宅」を再編集し、書き下ろしを加えた。以下の文章は著者の松尾氏が今まさに省エネ住宅に着目する必要性を指摘したものだ。

7月25日に発行する書籍「ホントは安いエコハウス」。プロでも陥りがちな25の勘違いとともに、省エネ住宅の設計手法を分かりやすく解説している(資料:日経ホームビルダー)

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また本書発行に合わせて、松尾氏によるセミナー「実践 売れるエコハウス」を7月28日に東京・秋葉原で開催する。本当は安く、効率的につくれるエコハウスの設計手順やノウハウをより詳しく掘り下げてお伝えする。


 大手住宅メーカーの一条工務店が、戸建ての販売戸数でトップを走ってきた積水ハウスに迫りつつあります。住宅産業新聞が2016年6月に発表したデータでは、積水ハウスの1万4000棟弱に対し、一条工務店は約1万2000棟の2位となっています。

 派手な宣伝などを実施せずに、住宅展示場を中心とした営業スタイルを貫いてきた一条工務店がここまで躍進してきた理由はどこにあるのでしょうか。私は、環境性能にあると考えています。

 住宅を建てる際に、建て主や住宅会社にとって重要な性能は主に3つあります。

(1)家全体で冬は暖かく、夏は涼しく過ごせながら、安い冷暖房費で済む
(2)住宅性能表示制度で定める耐震等級3を確保する
(3)適切な防蟻処理、通気計画によって耐久性を保つ

 私はこれまでに数多くの住宅設計者に対して、住宅設計のセミナーを行ってきました。そうしたセミナーで受講者からの質問などを聞いていると、上の3項目をきちんと満たしている人や会社は本当にごくわずかだと感じます。3つの項目を1つも実現できていない会社が最も多く、次に多いのは2つできていない――。そんな具合なのです。


住宅メーカーが軽視しがちな温熱環境

 大学卒業後、私は住宅メーカーに就職しました。ですから、住宅メーカーの内情をよく知っています。多くの住宅メーカーは上記のうち、(2)と(3)に注力しています。ところが(1)については、(2)や(3)に比べて力が入っていませんでした。

 しかし、この数年の間に省エネ住宅を取り巻く状況は大きく変わりました。高性能樹脂窓の普及率が大きく伸び、「パッシブデザイン」という言葉が住宅業界で普通に使われるようになっています。さらに、規制緩和によって、家庭で購入する電力やガスの供給者を選べるようにもなりました。

 断熱性能に見向きもしなかった意匠系の建築設計者が断熱に取り組むようになり、高断熱を大きな売りにしてきた工務店は、設計力を向上させなければ住宅が売れない時代になりつつあるのです。

 冒頭で示したように販売棟数を伸ばしてきた一条工務店。その大きな特徴は、大手住宅メーカーのなかでも圧倒的な断熱性能を誇りながら比較的価格が安いという点です。

 一条工務店は最初に示した3つの項目を全て満たす住宅を建てています。そして、10kW以上の容量を持つ太陽光発電を設置して発電後の収益で設置費用を賄う仕組みを採用し、建て主が設備を導入しやすくしています。

 同社は建材の8割以上をフィリピンの自社工場で製造しており、非常に高い性能を安いコストで実現。高い費用対効果を実現しているのです。売れるのは至極当たり前と言えるでしょう。高い断熱性能を持つ住宅は、燃費のよい車のようなものです。


売れる住宅業界の“プリウス”

 住宅メーカーの多くが省エネをうたい始めていますが、車でもアピールする燃費のよさは、燃料1リットル当たり17kmといったレベルから、40km程度のプリウスまでさまざまです。「一条工務店の家は、住宅業界におけるプリウス」と表現すれば、その性能の高さが分かりやすいかと思います。

低燃費が売りの自動車「プリウス」(写真:松尾 和也)

 これまで住宅業界で「次世代省エネ基準」(1999年基準)と呼ばれてきた基準が2020年に義務化されます。この基準は、車に例えれば燃費が1リットル当たり17kmの製品です。特別に自慢できるような水準とは言い難いのです。

 ちなみに、プリウスで年間1万kmを走った際の一次エネルギー消費量を実燃費である1リットル当たり26kmで計算すると、年間で13.5GJ程度を消費することになります。一般的な1リットル当たり13kmの燃費の車なら、年間で27GJに相当します。

 一方、一般的な住宅で消費する一次エネルギー消費量は大体、平均で年間75GJとなります。平均的な住宅では、車の3倍のエネルギーを消費するのです。

 車は約10年ごとに乗り替えますし、そのたびに大幅に燃費が向上していきます。ところが、その3倍のエネルギーを消費する住宅は、30年以上使われるにもかかわらず、断熱性能のような基本的な構成要素では完成時の性能が続きます。

 住む期間全体に要する光熱費と工事費の合計金額を抑えなければ、いくら工事費が安くても「安物買いの銭失い」になりかねません。だからこそ、住宅の省エネ性能を重視する必要があるのです。一条工務店に対する関心が集まっているという状況は、建て主側の見方がそのように変化していることの表れと言えるでしょう。

 省エネ住宅を建てて住むメリットや設備を含めた住宅の設計手法などを、日経BP社が7月25日に発行する書籍「ホントは安いエコハウス」で詳しく記しています。省エネ住宅の建設に取り組もうとしている実務者だけでなく、省エネ住宅の建設やリフォームを計画されている建て主の方にも役立つ情報を数多く紹介しました。

松尾 和也=松尾設計室室長 [日経ホームビルダー

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