水辺の環境づくりのために重要な起点となった河川法の改正から20年を迎える。建築家として河川利活用の領域を切り開いてきた岩本唯史氏に、その現在を報告してもらった。(日経アーキテクチュア)

 国が1997年に河川法を改正し、「河川環境の整備と保全」を法の目的として明記してから、今年6月4日で20年を迎える。この河川法における「環境」という言葉は、実は自然環境にとどまらず、歴史、文化などを含む河川にまつわる人間の身の回りのこと全般を指している。

 建築家であり、また都市部で活動している筆者自身は、ある時期まで河川に対して「自然そのもの」というイメージを持っていた。河川に関わる環境と聞くと、すぐに自然環境を思い起こしてしまっていた。しかし、もっと幅広い生活環境を法律が対象にしていると知り、驚いた。建築を規定する法律には、そうした観点が欠けていると意識するきっかけにもなった。

 筆者自身、建築設計に携わると同時に、 2000年代から河川に関連する様々なプロジェクトや、パブリック空間としての河川の活用を広げる普及啓発活動に参画するようになった。幅広い生活環境に関わるという意味では、建築家、建築士にとっての重要な仕事の領域であると認識して進めてきた。

 特に近年、筆者が事務局に関わるミズベリング・プロジェクト(2014年から)や、国土交通省の「かわまちづくり」支援制度の改定(2016年)など、まちと河川空間を横断的に扱い、よりよい環境づくりを目指すプロジェクトや、その河川空間の利活用を通して地域再生を達成しようとする制度などが充実してきた。建築と河川が急速に近くなってきたことを実感している。

2016年3月開催のミズベリングジャパンの様子(写真:日経アーキテクチュア)
2016年3月開催のミズベリングジャパンの様子(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

[関連記事]
公民連携の水辺活用へ盛り上がり!

 最近のトピックスとしては、東京都建設局河川部の実施する「かわてらす」が、河川敷地の上の構造物を民間活用する取り組みとして注目を集めている。

 都の「かわてらす」については、昨年2店舗が実現した。今年4月14日には水辺の宿泊施設「LYURO 東京清澄-THE SHARE HOTELS-」が江東区清澄に開業し、合計4カ所となった。特にLYUROの場合、ホテル2階部分の「かわてらす」に外部からも直接アクセスできる階段を設け、宿泊者以外も利用できる公園に類するオープンスペースを実現している。

「LYURO 東京清澄-THE SHARE HOTELS-」の「かわてらす」部分(写真:岩本唯史)
「LYURO 東京清澄-THE SHARE HOTELS-」の「かわてらす」部分(写真:岩本唯史)
[画像のクリックで拡大表示]

[関連記事]
隅田川沿いで「川床」、第2弾は2店舗

[関連情報]
隅田川“かわてらす”社会実験の出店事業者が決定(東京都)

 河川法改正20年となる6月4日には、「水意識社会」の形成をうたう国土交通省が、河川法改正20年インスパイアプログラム「水辺の時代を開く」を開催する。キーノートスピーチには、生物学者の立場から「動的平衡」という概念を提唱している青山学院大学総合文化政策学部の福岡伸一教授が登壇する。「生命の岸辺について」と題し、河川と“環境”、そして生命や我々の内なる自然との間には共通するダイナミズムがある、といった観点の講演になるという。

河川法改正20年インスパイアプログラム「水辺の時代を開く」では、福岡氏の講演のほか、法政大学教授で全国エリアマネジメントネットワーク副会長の保井美樹氏、地域に根差した店舗づくりに定評があり、「かわてらす」の設置など水辺の飲食店にも力を入れてきたバルニバービの佐藤裕久代表、国土交通省水管理・国土保全局長の山田邦博氏によるトークセッションを行う(資料:国土交通省)
河川法改正20年インスパイアプログラム「水辺の時代を開く」では、福岡氏の講演のほか、法政大学教授で全国エリアマネジメントネットワーク副会長の保井美樹氏、地域に根差した店舗づくりに定評があり、「かわてらす」の設置など水辺の飲食店にも力を入れてきたバルニバービの佐藤裕久代表、国土交通省水管理・国土保全局長の山田邦博氏によるトークセッションを行う(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

[関連情報]
河川法改正20年インスパイアプログラム「水辺の時代を開く」を開催します(国土交通省)

 いま、建築を含む“環境”は、単純に新たにつくる時代から、賢く使いこなす時代に移り変わりつつある。そうした意味で、新たな水辺時代の幕開けを告げるイベントになるはずだ。