熊本地震の発災翌日の4月15日、耐震工学の第一人者である和田章・東京工業大学名誉教授が被災地に入った。現在、日本建築学会や土木学会など50の学会で組織する「防災学術連携体」の代表幹事を務めている。防災学術連携体に所属する専門家有志が4月18日、土木学会で記者会見を開いた。建物被害から得られる教訓は何か。以下に、和田氏の許可を得て、調査リポートを全文掲載する。

和田章・東京工業大学名誉教授。写真は、16年2月の台湾南部地震の現地調査の際に撮影したもの(写真:日経アーキテクチュア)
和田章・東京工業大学名誉教授。写真は、16年2月の台湾南部地震の現地調査の際に撮影したもの(写真:日経アーキテクチュア)
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地震災害を軽減するために建築物の耐震性向上を!

和田 章

防災学術連携体代表幹事、東京工業大学名誉教授、
日本免震構造協会会長、元・日本建築学会会長

1.地震災害と建築の崩落

 熊本地震を受けて、多くの建築が壊れた。42人の貴重な命が奪われ10名の行方不明者がいるとされ、4月17日時点で11万人を超える人々が避難生活を余儀なくされている。建築の耐震性向上を研究課題にしてきたものの一人として、努力が全国に行き渡っていなかったことを不甲斐なく思う。次には仮設住宅が必要になるが、普段の平穏な生活は建築で支えられていることを再認識する。建築は衣食住の一つであり、人が生きていくための器であり、地震災害を本気で減じようとするなら、建築を壊れなくすることが最も重要である。

 建物全体の重量を計算して総床面積で除すると、単位床面積当たりの建築重量が求まる。1 m2当たりの建築重量は、木造では約350kg、鉄骨造では約650kg、鉄筋コンクリート構造では約1200kgとなる。建築はこれら重量と構造体の剛性によって、中に暮らす人々の安定した生活・活動やプライバシーを守っているとも言える。80m2の総2階建て木造住宅の場合、1階の人の上には28tonの重量があり、鉄筋コンクリート構造の10階建てのマンション(80m2)の1階の上には960tonの重量があることになる。木造では大型トラックの下、マンションでは10台の蒸気機関車(D51は100ton/台)の下に住んでいるのと同じである。簡単な計算の結果、とんでもない重量の下で、人々が生活し活動していることが分かる。

 人々の命を守るためには、大きな地震を受けても建物が崩落することだけは避けねばならない。1981年に改正された我が国の耐震基準では、人命を守るために建物の崩壊を避けることを強く主張している。