第2回目となる「リノベーションまちづくりサミット」の開催が迫っている。4月14日から16日の3日間、東京・外神田の会場に、「民間主導、行政支援」による新しいまちづくりを切り開いてきた全国の担い手が集まる。その企画を推進してきた清水義次氏と嶋田洋平氏に語り合ってもらった。

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 エリア再生を主目的に、まちに求められる「コンテンツ」を生み、その担い手を育てる役割を担ってきたリノベーションまちづくりは、より「形なきもの」に向かい始めているという。しかし、新築や再開発を、リノベーションと対立させたいわけではないと、その渦中にいる清水氏と嶋田氏は強調する。

 理想を共有すれば取り払っていけるはずの公共と民間の境、当たり前に受け取られている制度、固定してしまった観念。それらまで“リノベーション”の対象とし、より社会的、経済的なインパクトのある、そして持続性のある活動として営む。そうした思惑が、サミットのプログラムを見ると分かる。

アフタヌーンソサエティ代表の清水義次氏(写真左)とリノベリング代表の嶋田洋平氏(右)。今回のサミットでは両氏共に、複数のカンファレンスでプレゼンターを務める。建築家の嶋田氏は、リノベーションまちづくりに関わる一連の活動により、日経アーキテクチュアの「編集部が選ぶ10大建築人2017」に選出されている(写真:日経アーキテクチュア)
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アフタヌーンソサエティ代表の清水義次氏(写真左)とリノベリング代表の嶋田洋平氏(右)。今回のサミットでは両氏共に、複数のカンファレンスでプレゼンターを務める。建築家の嶋田氏は、リノベーションまちづくりに関わる一連の活動により、日経アーキテクチュアの「編集部が選ぶ10大建築人2017」に選出されている(写真:日経アーキテクチュア)

●リノベーションまちづくりサミット!!!2017
会期 2017年4月14日(金)~16日(日)
会場 3331 Arts Chiyoda メインギャラリー(東京・外神田)
プログラム詳細は 公式サイト を参照。

●対談第1回 建築は「エリアの経営資源」──サミット開催
●対談第2回 嶋田洋平氏「僕らを見つけてほしい」──サミット開催


──民間企業がリノベーションスクールを主催する動きも現れましたね。嶋田さんたちのリノベリング社による昨年4月の「リノベーションスクール@都電・東京」のほか、この3月には、東急電鉄が「リノベーションスクール@東急池上線」を開催しています。

嶋田 昨年のサミットの直後、リノベリングが初めて自主的に開催したリノベーションスクールが「都電・東京」です。豊島区が開催するスクールもあるんですけれど、その頃の僕の問題意識は、行政区としての豊島区だけで進めるのでは限界がある、ということでした。

 まず行政区の面積自体が狭いので、その範囲内でスクール向けの遊休物件を見つけてくるのが非常に難しい。それから、地方と東京の決定的な違いを2つ感じていました。

 1つは、東京では地方ほど行政が信頼されていない。特に不動産オーナーが、公共の担い手として信頼のおける存在だと見なしていない傾向があるので、行政が関わるからスクールのために物件を使わせてくれるという話にはなりづらい。

 もう1つは、東京の人たちというのは、特定の行政区に暮らしているというよりは、どこかの鉄道の沿線に暮らしているという認識の人のほうが多いだろう、と。それで僕らの拠点が既にある場所をつないでいる都電荒川線の沿線エリアを対象とするリノベーションスクールを自主開催したんです。

2016年4月開催のリノベーションスクール@都電・東京、公開プレゼンテーションを行った最終日の様子(写真:日経アーキテクチュア)
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2016年4月開催のリノベーションスクール@都電・東京、公開プレゼンテーションを行った最終日の様子(写真:日経アーキテクチュア)

リノベーションスクール@都電・東京の案件で、16年10月に東京都豊島区北大塚に開業した飲食店「都電テーブル 大塚」。嶋田氏などが設立した都電家守舎が経営する。今回のサミットでは、同社にパートナーとして参画する安井浩和氏(こだわり商店代表)が、「リノベーションまちづくりと新しい食の産業」(14日)をテーマとするカンファレンスに登壇する(写真:西田香織)
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リノベーションスクール@都電・東京の案件で、16年10月に東京都豊島区北大塚に開業した飲食店「都電テーブル 大塚」。嶋田氏などが設立した都電家守舎が経営する。今回のサミットでは、同社にパートナーとして参画する安井浩和氏(こだわり商店代表)が、「リノベーションまちづくりと新しい食の産業」(14日)をテーマとするカンファレンスに登壇する(写真:西田香織)
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リノベーションスクール@都電・東京の案件で、16年10月に東京都豊島区北大塚に開業した飲食店「都電テーブル 大塚」。嶋田氏などが設立した都電家守舎が経営する。今回のサミットでは、同社にパートナーとして参画する安井浩和氏(こだわり商店代表)が、「リノベーションまちづくりと新しい食の産業」(14日)をテーマとするカンファレンスに登壇する(写真:西田香織)

──開催時には「自治体の枠を超える」とうたっていましたね。

嶋田 結果は物件もたくさん出てきたし、ものすごく面白かった。都電という小さい路線だったけれど、鉄道沿線をテーマにリノベーションスクールを開くことの可能性を感じたんです。そのときに清水さんが「別の路線でもやってみてはどうか」と仰っていて、僕も「やります」と答えていた。そのやり取りを、会場で東急電鉄の人たちが聞いていたんです。

 実は2014年の頃の熱海のリノベーションスクールに、東急電鉄の若手の社員が1人、観覧に来ていた。「こういうまちづくりこそ鉄道会社がやるべきだと思う」と僕に言っていたんです。その彼が、都電の沿線を対象にするスクールが開催されると聞いて驚き、社内の仲間や上司を連れて見に来て、それで1カ月もたたないうちに相談があった。複数の鉄道会社から話があったなかで、東急電鉄の動きが速く、温泉施設、公園、寺院、駅前の空き店舗を課題の対象とするスクールが実現しました。

 郊外住宅地は、これまでのリノベーションスクールがカバーしきれていないエリアですけれど、鉄道事業者がカギになるのかなという感触を持っています。

 スクールの対象エリアを中心市街地とするのは確かに分かりやすい。でも行政としては、郊外住宅地の将来的な疲弊も経営課題であると分かっているわけです。そのときに、ある自治体は「鉄道事業者と一緒に取り組みたい」と言っている。確かに、よくも悪くも鉄道事業者の経営戦略しだいで、エリアの将来が大きく左右されるわけです。鉄道事業者と行政によるリノベーションまちづくりというのは、有望な手段じゃないかと思っています。

左は、東急電鉄が2017年3月に主催した「リノベーションスクール@東急池上線」の公開プレゼンテーションを告知するポスター。沿線に貼り出された。右写真は、同・公開プレゼンテーション当日の様子。会場は池上本門寺の朗峰会館(東京都大田区)(左資料:東京急行電鉄 右写真:日経アーキテクチュア)
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左は、東急電鉄が2017年3月に主催した「リノベーションスクール@東急池上線」の公開プレゼンテーションを告知するポスター。沿線に貼り出された。右写真は、同・公開プレゼンテーション当日の様子。会場は池上本門寺の朗峰会館(東京都大田区)(左資料:東京急行電鉄 右写真:日経アーキテクチュア)
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左は、東急電鉄が2017年3月に主催した「リノベーションスクール@東急池上線」の公開プレゼンテーションを告知するポスター。沿線に貼り出された。右写真は、同・公開プレゼンテーション当日の様子。会場は池上本門寺の朗峰会館(東京都大田区)(左資料:東京急行電鉄 右写真:日経アーキテクチュア)

●関連記事 東急電鉄が鉄道会社初の「リノベーションスクール」

清水 これまでカバーしきれていなかったエリアとしては、団地におけるリノベーションまちづくりの相談も、かなり増えてきました。あとは、これから現れるのは特に駅前などの再開発とリノベーションまちづくりを重ね合わせる取り組みでしょうね。

 リノベーションまちづくりを進めているなかで、しばしば僕らは、「再開発には反対ですよね?」って言われるわけです。でも、リノベーションまちづくりと再開発は決して対立概念じゃない。だから「全く反対はしていないんですよ」という説明をしなきゃならない場面が、この1年の間にも何度もありました。真意が伝わるよう、リノベーションまちづくりを進めている側から「新しい再開発のモデル」をちゃんと示さなきゃいけない時期に来ていると感じています。