杭データ偽装を機に杭基礎への関心が高まっている。集合住宅で主流となっている高支持力杭に焦点を当て、設計者が知っておくべきポイントを、杭工法に詳しいパイルフォーラムの林隆浩取締役が解説する。さらに、日経アーキテクチュアは、知識を深めたい実務者向けのセミナー「設計者が知っておくべき『杭基礎と地盤の基本』」を4月22日に開催する。本記事の寄稿者も登壇するので、併せてご活用いただきたい。(日経アーキテクチュア)

パイルフォーラム取締役
林 隆浩

 横浜市内の分譲マンションが傾斜したとされる問題は、杭基礎の重要性を多くの人に知らしめた。そこで杭基礎について、設計者が最低限知っておきたい基本を解説する。ここでは集合住宅の基礎で主流となっている、高支持力の既製コンクリート杭に焦点を当てる。

 高支持力杭が求められた理由は、基礎の設計がシンプルになり、施工コストを削減できるからだ。高支持力になるほど、1本の杭が負担できる荷重が大きくなり、打設する杭の本数を減らすことができる。極論すると、建物本体の柱1本につき、1本の杭で荷重を受けることができる。すると、工期を短縮できる。

高支持力杭ほど1 本の杭が負担できる荷重が大きくなり、設置本数を減らせる。フーチングなど基礎の設計を簡素化できるので、フーチングを小さくしたり、地中梁の配筋を少なくしたりできる(資料:筆者の資料をもとに日経アーキテクチュアが作成)
高支持力杭ほど1 本の杭が負担できる荷重が大きくなり、設置本数を減らせる。フーチングなど基礎の設計を簡素化できるので、フーチングを小さくしたり、地中梁の配筋を少なくしたりできる(資料:筆者の資料をもとに日経アーキテクチュアが作成)
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 一方、建物の基礎構造の設計がシンプルになる。杭の先端支持力が小さいと、1本の杭が負担できる荷重が小さくなるので、フーチングに接合する杭の本数が増える。フーチングにかかる応力が大きくなるので、フーチングを大きくしなければならない。フーチングや基礎梁などの配筋も増え、建物本体の基礎構造の設計が複雑になる。

 つまり、基礎杭の先端支持力が大きくなるほど、建物の基礎構造をシンプルにできるし、設計も施工も楽になる。工期も短縮でき、総工費も削減できる。基礎にかかるコストは一般に、総工費の3~5%程度が目安と言われる。工費削減が利益増大に直結する分譲マンションでは、杭の工事費を削減できる意味は非常に大きい。