日経BP社は2月27日、書籍「建築のチカラ~闘うトップランナー」を発行した。日経アーキテクチュアが創刊40周年記念として2016年に連載した「特別講座・建築のチカラ」のインタビュー全文を収めた。

コンクリートをイメージしたカバーデザインの<a href=" https://www.amazon.co.jp/dp/4822239330/" target="_blank">「建築のチカラ~闘うトップランナー」</a>。アマゾンの売れ筋ランキング「建築家・様式分野」と「建築構造・施工分野」で上位にランクイン(3月13日時点)
コンクリートをイメージしたカバーデザインの「建築のチカラ~闘うトップランナー」。アマゾンの売れ筋ランキング「建築家・様式分野」と「建築構造・施工分野」で上位にランクイン(3月13日時点)

 最前線で活躍する10人に登場してもらい、次代を担う若い世代に向けて、建築に取り組む際に考えなければならない大切なことを伝えてもらうのが目的だ。特別対談として建築家の伊東豊雄氏と乾久美子氏に、これからの建築の可能性はどこにあるのかを語り合ってもらった。

 同書で取り上げた10人は、建築設計者にとどまらず、設備や構造のエンジニア、ゼネコン(総合建設会社)の現場所長、不動産デベロッパー、建築カメラマンなどの中から人選した各分野のトップランナーだ。国内ばかりでなく、海外を拠点とする人物も対象とした。

 この10人について共通項を探したところ、以下に解説する5つのキーワードが浮かび上がった。このうち、「つなぐ」「育てる」「伝える」「近づく」の4つは、社会にいかに認知してもらえるか、というテーマが根底にあるといえるだろう。建築が「チカラ」を持つためには、社会性を獲得できるかどうかがカギになっている。

キーワード1=つなぐ
デザインのチカラで街と結ぶ

 西沢立衛氏と妹島和世氏のパートナーシップによるSANAAは、大規模な公共建築である「金沢21世紀美術館」(2004年)の設計をきっかけに、街に寄与する環境づくりを意識し始めた。その答えが、周囲の柵を取り払い、人があちこちから出入りできるガラス張りの円形プランだ。出入り口は5カ所に及ぶ。

「金沢21世紀美術館」(竣工:2004年、設計:SANAA)を見下ろす。「我々の事務所にとってはすごく大きな意味を持つプロジェクトだ。それまでで最大規模であり、街のど真ん中に建つ文化施設」と西沢立衛氏は言う(写真:吉田 誠)
「金沢21世紀美術館」(竣工:2004年、設計:SANAA)を見下ろす。「我々の事務所にとってはすごく大きな意味を持つプロジェクトだ。それまでで最大規模であり、街のど真ん中に建つ文化施設」と西沢立衛氏は言う(写真:吉田 誠)
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 このデザインを進化させたのが「ロレックスラーニングセンター」(2009年)だ。どこからアプローチしても迂回せず中に入れるように、エントランスを建物の中央に配置した。建物は部分的に宙に浮いているので、そこをくぐって真ん中のエントランスへ向かう動線だ。

 ロレックスのもう1つの特徴は、空間をひとつながりにしたこと。丸い中庭やスロープで空間を分けたり、部分的に壁を入れたりすることで、仕切ってはいるが、学生は、興味があればスロープの向こうまで歩いて行って、隣の学科の活動を見ることができる。学科を超えて新たな関係をつくれるような空間構成にしている。建物の内部が街になっているようなイメージだ。

 2011年以降は、複数の勾配屋根を架けて、街とのつながりを生む「屋根の建築」へと発展した。軒を介して内部と街を連続させ、利用者に内外で快適性を感じてもらおうという試みだ。こうした手法は、3D(3次元)ソフトの進歩で可能になった。

岡山市に立つ「Junko Fukutake Hall」(竣工:2013年、設計:SANAA)の全景。大中小の3つのホールが緩やかにつながる(写真:SANAA)
岡山市に立つ「Junko Fukutake Hall」(竣工:2013年、設計:SANAA)の全景。大中小の3つのホールが緩やかにつながる(写真:SANAA)
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 西沢氏は以下のように説明する。「『屋根の建築』は、壁一枚で中と外を分ける建築よりも、中と外の間にいろいろな場があって連続的だ。建築と街が連続している。僕らはやはり、『家に住む』のと同時に、『街に住む』という感覚を持っている。家と街の両方に住んで、どちらも快適ならば、我々は喜びを感じる。建築と街の調和という意味でも、屋根はものすごく可能性を持っているなと感じる」