キーワード2=育てる
街や景観をはぐくむ

 建築界が忘れてならないのは、建築を「育てる」という意識だ。社会に受け入れられる建築とするには、長期的な視点が欠かせない。例えば、景観の形成を踏まえて建築を考えること。2004年に景観法が施行し、風景の一部として建築を捉える発想がこれまで以上に求められている。

 建築家の内藤廣氏は今から25年ほど前、代表作の1つである「海の博物館」(1992年)の完成直後に、自分の立ち位置を説明するために「素形」と呼ぶ造語を用い始めた。「誰の心の奥底にもある、形以前の深層意識」(内藤氏)のことだ。

 内藤氏は東日本大震災後に、素形に加えて、新たに「素景」と名付けて地域の風景づくりに取り組み始めた。「素景は、基本的に共同体の夢となるような風景をそう呼んでみたいと考えて生まれた言葉。それこそが現代に実現されるべき価値だと思えてならない」と内藤氏は言う。設計を通して住民の心の奥底にある深層意識を可視化することだ。建築として実現できれば、地域が愛着を持ってくれる景色になるはずだ。

「静岡県草薙総合運動場体育館」(竣工:2015年、設計:内藤廣建築設計事務所)を北東から見る。内藤廣氏が「素景」を実現できたというプロジェクト。「小さな瓶のアルミ箔のフタを指先でいじっていたときに形がピタッとはまった。案外そんなものが空間や景観の原形のような気がしている」と内藤氏は話す(写真:吉田 誠)
「静岡県草薙総合運動場体育館」(竣工:2015年、設計:内藤廣建築設計事務所)を北東から見る。内藤廣氏が「素景」を実現できたというプロジェクト。「小さな瓶のアルミ箔のフタを指先でいじっていたときに形がピタッとはまった。案外そんなものが空間や景観の原形のような気がしている」と内藤氏は話す(写真:吉田 誠)
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キーワード3=高める
技術や施工を究める

 建築物省エネ法の施行などを背景に、設備設計に高いエンジニアリング力が求められている。環境への配慮が求められるのは施工も同様で、周辺地域との共生が不可欠だ。施工管理におけるマネジメント力の強化は、時代の要請ともいえる。

 竹中工務店大阪本店の中野達男総括作業所長は、まさにマネジメントのプロ。仮囲いに四季折々の絵を自分たちで描いたり、現場内に菜園をつくり、近所に野菜を配ったりするなど、近隣への配慮を欠かさない。

 中野総括作業所長の真骨頂は「少数精鋭」にある。職人のやる気を引き出し、施工の効率を高める考えだ。「ひと言でいうと、現場で働く人の作業効率を高めるというのが全てだと思う。500人の職人が110%で仕事をしたら550人工になる。少数精鋭にして、職人の効率を上げれば、経費が削減できる。そのためには厳しい施工管理が必要だ」。こう中野総括作業所長は言う。

 少数精鋭が可能になるのは、コミュニケーション能力の高さが、ベースにあることを忘れてはならない。例えば、現場の朝礼時、安全の掛け声とともに和太鼓をたたき、気合いを入れながら職人の顔色を見たり、職人の名前を呼びながら「調子はどう?」と、背中やヘルメットを軽くたたいて、スキンシップを図ったりするのが中野流だ。

作業現場の朝礼で竹中工務店の中野達男総括作業所長が太鼓をたたいて職人を激励しているところ(写真:竹中工務店)
作業現場の朝礼で竹中工務店の中野達男総括作業所長が太鼓をたたいて職人を激励しているところ(写真:竹中工務店)
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