賃貸住宅が普及の鍵を握る

 省エネ性能表示制度を市場に広く浸透させる方法については、賃貸住宅で普及させる重要性と、不動産情報サイトで表示させる有効性が議論された。

 鈴木さんは、多くの人が暮らす賃貸住宅で省エネ性能表示制度を機能させ、不動産業界を動かすことが重要だと言及した。「特に地方は公営住宅が多い。そこが率先して省エネ性能を表示すれば、住宅選びの指標として消費者に浸透する」。

 リクルート住まいカンパニーSUUMO編集長の池本洋一さんも同意する。同社の調査結果では、最近の賃貸住宅における入居者の関心事として、断熱・気密や結露が上位にくるという。「温熱環境が悪いと退去まで考えるのが今の住まい手。住宅の品質確保促進法以降に建てられた家で育った若い世代が増え、健康への感度が上がっている。住まいの温熱性能に対して消費者が厳しい目を持ち始めている」。

 2015年春、北方建築総合研究所と北海道はSUUMOの協力を得て、北海道の賃貸住宅を対象に省エネ基準や日本工業規格(JIS)のL等級などを星の数で表す性能表示の実験を行なった。「性能表示をした住宅の契約率は高く、市場を刺激する効果を実感した」と鈴木さんは説明する。

 全国的に賃貸住宅の空室率が高まるなか、最近の賃貸住宅オーナーが重視するのは退去リスクが低い住まいづくり。「騒音問題の影響で、アパートを含めて遮音性能が高まった。次は省エネ性能に着目する可能性が高い。特に高齢者向け賃貸住宅においては、省エネ性能で差別化も図りやすい」。池本さんは、賃貸住宅において省エネ性能表示制度がもたらす効果についてこう期待する。

 不動産情報サイトに表示される場合に好ましい内容は何か。「ユーザーに分かりやすく示すという点では、自動車における燃費性能のような表示がよい。実燃費とのずれが出たとしても相互に比較可能になる」(鈴木さん)。池本さんも「経済性に訴えるのが一番響く。家賃の横に年間光熱費が表示されるようになれば、住宅市場は変わる」と断言する。

 不動産情報サイトにおいて省エネ性能表示を有効に働かせるには、そうした表示をサイトに実装するタイミングが重要になる。「サイト事業者が検索要件で省エネラベルを表示できるようにする時期と、住宅事業者が省エネラベルを取得・表示した物件を市場に多く出す時期を合わせる必要がある。その時期を決めて、官民連携で盛り上げることができれば面白い」と池本さんは提案する。

左から、リクルート住まいカンパニーMP統括部編集部SUUMO編集長の池本洋一さん、積水ハウス執行役員技術部長の内山和哉さん、三菱地所レジデンス商品企画部長の榎並秀夫さん、北海道立総合研究機構建築研究本部北方建築総合研究所副所長の鈴木大隆さん(写真:清水真帆呂)
左から、リクルート住まいカンパニーMP統括部編集部SUUMO編集長の池本洋一さん、積水ハウス執行役員技術部長の内山和哉さん、三菱地所レジデンス商品企画部長の榎並秀夫さん、北海道立総合研究機構建築研究本部北方建築総合研究所副所長の鈴木大隆さん(写真:清水真帆呂)
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