国土交通省採択「サステナブル建築物等先導事業(省CO2型)」の「ライオンズ芦屋グランフォート」プロジェクトがいよいよ動き出す。事業者は、不動産開発を手掛ける大京。一戸建てと比べ、実現が難しいといわれるマンション版ZEH※1 数々の問題を乗り越え、「ネット・ゼロ・エネルギー・マンション(ZEM※2)」普及を目指す。これまでも社会課題の解決に向けた取り組みを推進してきた大京。その原動力を探る。

兵庫県芦屋市で進めるNearly ZEM化された最新マンション
兵庫県芦屋市で進めるNearly ZEM化された最新マンション
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※1 Nearly ZEH(Nearly Zero Energy House)・・・外皮(住宅の内部と外部の境界部分)の高断熱化および高効率な省エネルギー設備を備え、再生可能エネルギーにより年間の一次エネルギー消費量をゼロに近づけた住宅。

※2 Nearly ZEM(Nearly Zero Energy Mansion)・・・Nearly ZEH の規定に準拠し、省エネルギーと創エネルギーにより基準一次エネルギー消費量を75%以上削減した共同住宅。

(上記省エネ・創エネの数値については計画段階の全住戸を平均した試算であり、記載の数値等は実際とは異なることがあります。)

 「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)とは、省エネと創エネを組み合わせ、そこで年間に消費するエネルギー量を正味ゼロ以下に抑えた未来の住宅だ。建物の断熱性を確保し、エネルギー効率の高い設備機器を導入することで省エネ性を高め、屋根面には太陽光発電設備を搭載する。

 マンションは一戸建て住宅に比べ1住戸当たりの屋根面積が小さい。それだけに「ネット・ゼロ」の実現は難しいといわれる。

 大京は兵庫県芦屋市のプロジェクトで、それに近いレベルまで達成し、国土交通省の補助事業「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」の対象に採択された。販売に向けた準備が着々と進められている。

商品開発の成果を生かし
災害時の強さを打ち出す

 商品開発を担当したのは、2001年に入社した小田島隆行氏だ。「ZEH化の流れは必ずマンションにも来ると考えています。商品化の段階では、その普及に向けた第一歩をまず大京が踏み出すべきと訴えました」。

小田島 隆行氏 建設管理部 商品企画室 商品開発課 係長
小田島 隆行氏 建設管理部 商品企画室 商品開発課 係長
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 とはいえ、建築コストがかさむ分、販売価格は高くなる。マーケットを踏まえると、省エネ性の高さを訴求するだけでは物足りない。小田島氏はそこで、災害時の強さも同時に打ち出す。

 たとえ電気や水道の供給が途絶えても、共用部も専有部も太陽光発電と蓄電池を備えているので電気は利用できる。電気を利用できれば、共用部の受水槽に蓄えられた水を給水ポンプで各住戸に供給することも可能だ。さらに、井戸水も利用でき、二重三重の防災対策を備えている。

 小田島氏は「これら共用部の設備は、1週間は稼働させることができる想定です。災害時配慮のマンションはほかにもみられますが、これだけの期間、エレベーターや水を利用できるものはそうないはず」と胸を張る。

 共用部の設備には、自ら商品開発に携わった「SONA-L SYSTEM(ソナエルシステム)」と呼ぶ防災システムを導入している。2017年度グッドデザイン賞を受賞した新しいシステムだ。

 この防災システムは、太陽光発電設備と蓄電池を組み合わせたもので、災害時には電気や水などライフラインを確保し、平常時には維持管理費の削減を図る仕組みが組み込まれている。「タイマーを用いて設備の運転時間を制御し、電力消費の最適化を図った点が最大のポイント」と小田島氏。それによって、システムのコンパクト化や低コスト化が可能になったという。

 小田島氏の役割は、このような時代のニーズを先導する新しい仕組みやサービスを生み出し、全国のマンション開発事業を支えていくことだ。社会課題の解決に役立ちそうな、ふっと頭に思い浮かんだアイデアを、具体の形に整えていく仕事ともいえる。

ビオトープの維持管理も
居住者らとともに開発

 これまで開発に携わったものの中には住戸専用宅配ボックス「ライオンズマイボックス」がある。「再配達ゼロ」をコンセプトに宅配ボックス開発メーカーと共同開発したものだ。これも、2016年度グッドデザイン賞(住宅設備部門)を受賞している。

 「すぐ満杯になるという声を受けて、宅配ボックスを小型化し世帯分を用意することを考えました。しかしそれだけでは、『再配達ゼロ』は達成できません。そこで、一部の配達事業者は荷物を追加入庫できる仕組みも開発しました。一人のアイデアでは限界があるので、チームで課題を共有し解決しています」

 一方で、横浜市の港北ニュータウン内で企画開発した分譲マンションでは、その敷地内に設けたビオトープを維持管理する仕組みを、マンション居住者らとともに開発していくということも経験した。居住者らがビオトープや緑に愛着を持ち維持管理していけるように、植栽の維持管理方法を検討する会を開き、「メダカ放流会」など管理組合のイベント開催を支援するなど、マンション分譲後も関わりを持ち続けてきた。

●メーカーと共同開発した住宅専用宅配ボックス(2016年住宅設備部門)
●メーカーと共同開発した住宅専用宅配ボックス(2016年住宅設備部門)
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●港北ニュータウン内のマンションのビオトープ(2016年住宅・住空間部門)
●港北ニュータウン内のマンションのビオトープ(2016年住宅・住空間部門)
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 「一部の居住者から『カエルの声がうるさい』『池の藻が汚い』などの声も上がり、お客さまと信頼関係を築くのに苦労した時期があったのも事実です。しかしいまでは、お客さまから『自然との共生に満足しています』という声も掛けていただき、信頼関係が構築でき、自然に対する愛着心の芽生えを実感しています」

 分譲マンション業界で住まいの未来を開拓してきた小田島氏。これからも社会課題の解決に挑み続けるという。

会社情報

  • 資本金:411億7100万円(2017年3月31日現在)
  • 売上高:3253億円(2016年4月1日~2017年3月31日・連結)
  • 社員数:5411名(2017年3月31日現在・連結)
  • 創業:1964年12月11日
  • 事業内容
    • ◎宅地建物取引業/国土交通大臣(14)第792号
    • ◎建設業/国土交通大臣許可(特-23)第4238号
    • ◎不動産特定共同事業/金融庁長官・国土交通大臣第18号
    • ◎一級建築士事務所/本社:東京都知事登録18268号

採用情報

  • 採用職種:[総合職]商品開発、建築企画、品質管理、施工管理、用地仕入、プロジェクトチーム営業他
  • 採用実績大学:全国主要大学、大学院
  • 採用実績学科:建築、土木、都市工学、環境デザイン他
  • 勤務地
    • 本社/東京都渋谷区
    • 支店/札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡、沖縄
  • 2017年採用実績:27名
  • 2018年採用予定数:35名
  • 初任給:修士了・学部卒:220,000円

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