自ら計算し設計力に生かす
──今お持ちの考え方や手掛けている手法は、設計者としてアドバンテージになると考えていますか?
そこまでは考えていないですね。しかしこれからの設計者は、高い省エネ性能を望む顧客が現れたときに、それを実現できる“引き出し”を持つべきだと思います。
私の事務所では現在、エネルギー消費量などの計算プログラムを使って、省エネ性能数値をスタッフを含めて自分たちで計算するようにしています。やってみると、それほど手間ではありませんよ。以前は、「建築は数値で測るものではない」という思いもありました。しかし逆説的ですが、自分たちで計算に取り組むことで、住み心地のような数値で測れないものの大切さも改めて見えてきた。
数値と自分の“体感”って、結構一致するのです。数値の差を知ったうえで、実際に足を運ぶと、体感ベースで腑(ふ)に落ちるというか。それが楽しくて、今は数値が好きになった(笑)。数値で測れないファクターを何らかの物差しで数値化して、自分の感覚とすり合わせる体験は重要で、設計の可能性を広げると思っています。
住宅の設計で最も楽しさややりがいを感じるのは、設計の力で住まい手の人生を豊かにするという点です。住み心地と直結する「性能」という面で、住まい手が完成後10年、20年と心地良く暮らせるために何ができるか、それをより強く意識するようになりました。
住み心地とは本来、温熱環境や動線計画など目に見えないファクターの良しあしが、大半を占めている。省エネ性能に関わる一定の数値基準をクリアすればいいというだけではなく、自らの体感も裏付けとして生かしながら、性能に影響を与える仕組みを理解する。それがとても大切です。
手応えは顧客の笑顔から見えてくる。そうしたプロセスが今、私にとってはとても楽しいのです。
[日経アーキテクチュア 2017年6月8日号掲載]