既製品採用で発見した可能性

──具体的にどのような発見を?

 私の場合、それまでの注文住宅では、例えば開口部の建具はオーダーメードを基本にしていた。しかし「これからの家」では、木製サッシなど全て既製品を使っています。

 既成品のサッシをただ使うだけでは、オーダーメードに比べて手づくり感がどうしても損なわれる。だが断熱気密性能に影響しない範囲で、デザイン面でいろいろと工夫すれば、全体で調和を保ってやわらいだ表情に仕上げられます。そうした点は「これからの家」の仕事を通して、改めて実感できた。

 施工や構造に対する設計者としての認識も、それまでとは少し変化した気がしています。例えばグラスウールの施工性を考慮して「外周部にはできるだけ筋交いを設けずに構造用合板で剛性を持たせる」とか、「施工時にカットしなくて済むように間柱は455mmピッチで規則正しく配置して、“間崩れ”は避ける」とか。

 部材の選定はもちろんですが、設計の過程で配慮すべきこうした寸法や納め方など、自分の考え方がそれまで以上に明快に整理できていくことを楽しみました。

 「これからの家」では、里山の緑が広がる北西側にもあえて大開口を設けています。性能面でデータ的な裏付けがあればこそ、できたことでもある。こうした点も、それまでのセオリーに基づく家づくりとは違う発見だったかもしれません。

既製品でもデザインを加味して調和とやわらぎ
既製品でもデザインを加味して調和とやわらぎ
神戸市北区の里山住宅博ヴァンガードハウス「これからの家」の1階居間から北側を見る。幅の広い窓枠で既製品の木製サッシの存在感をやわらげた。開口部の上部には、水平材を通して視線を下げ、落ち着いた雰囲気をつくり上げている(写真:生田 将人)
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 図面との向き合い方も変わりました。「ここで熱橋ができてしまう」とか、「こういう納め方なら気流止めになる」とか、詳細図や矩計図より前のラフなプランを考えている段階でも、よりはっきり見えてくるようになった。従来も意識していなかったわけではないけれど、より情報量が増えた感じですね。

──「省エネ住宅」に対する考え方も従来と変わりましたか?

堀部 安嗣(ほりべ やすし)<br>1967年神奈川県生まれ。90年筑波大学芸術専門学群卒業、益子アトリエを経て94年堀部安嗣建築設計事務所を設立。2007年から京都造形芸術大学大学院教授。16年「竹林寺納骨堂」で日本建築学会賞作品賞を受賞(写真:都築 雅人)
堀部 安嗣(ほりべ やすし)
1967年神奈川県生まれ。90年筑波大学芸術専門学群卒業、益子アトリエを経て94年堀部安嗣建築設計事務所を設立。2007年から京都造形芸術大学大学院教授。16年「竹林寺納骨堂」で日本建築学会賞作品賞を受賞(写真:都築 雅人)
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 間違いなくそう言えます。以前の自分に、一種の“先入観”があったことに改めて気付いた。

 正直に打ち明ければ、以前は「寒冷地ならともかく、温暖な地域で缶詰みたいに閉じた空間をつくってどうする」と思わなくもありませんでした。断熱性能を強化した住宅といえば「壁厚や屋根の懐が厚くて、ボテボテしている」などと、あまり良い印象を持っていなかった。

 しかし間違っていました。不十分な断熱気密性能を補うためにエアコンを各部屋に入れて、室外機が戸外にずらりと並ぶ。そうした状況のほうがずっと格好悪い。断熱気密性能が十分なら、設備もコンパクトにできる。部屋ごとの温熱環境のムラが減るので、空間的には小さくても、どの部屋も稼働率が高くなり、実感として「広々した家」になります。こちらのほうが理にかなっている。

──「これからの家」では、新木造住宅技術研究協議会(新住協)に加盟している工務店のダイシンビルド(大阪府大東市)が施工を担当しました。

 「これからの家」以降も省エネ住宅に取り組んでいますが、ダイシンビルドとの出会いをきっかけに、新住協の考え方を基本に設計しています。私個人も、設計事務所としても、省エネ住宅づくりに関してはまだ過渡期。ですから新住協のつながりをベースに、知識と経験が豊富な施工者を見極めて、お願いしています。勉強させてもらってますよ。

 家づくりのコスト面に関しては、例えば施工手間が増えるなど、私自身も最初は少し心配していました。しかし実際に体験してみると、そこまで激しいコスト増は生じないやり方があると分かった。

 感覚ベースでは、同規模の住宅で従来の家づくりで要するコストを1とすると、現状の手法で1.05程度でしょうか。一定の断熱気密性能を満たすうえで、部材の種類や量、施工手間などでコストが増える側面がある一方、冷暖房設備が減る面など、プラスマイナスでそのくらいの印象です。完成後のランニングコストは格段に減りますが、それは別として。

──堀部さんに注文住宅を依頼する顧客側に変化はありましたか?

 私たちから「断熱気密性能をしっかり確保しましょう」と言っても、あまりピンとこない表情の方もいます。そのほうがまだ多いかな(笑)。「堀部さんらしさがなくなったら嫌」という反応もありますよ。

 省エネ住宅としての性能を満たすことと、私たちらしさとは矛盾する関係ではない。デザインなど目に見える部分も大事ですが、温熱環境のように、住み心地という点では「目に見えないもの」の役割がずっと大切です。私たちのほうから積極的にそう訴えています。