構造計画の工夫で窓を大きくするのではなく、耐震壁そのものが透明だったらどのような空間になるだろうか──。そのヒントが、「早稲田鶴巻町Iビル」(東京都新宿区)にある。吹き抜け空間の上階に、ガラスを組み合わせた“ステンドグラス構造”を採用した。
建物は1~3階を事務所、4、5階をオーナー住戸で構成する併用住宅。2015年11月に完成した。敷地面積は55.93m2で間口が約3mと細長く、居室面積をできるだけ広く確保するために2.5mスパンの鉄骨ラーメン構造とした。
4、5階のオーナー住宅はメゾネットで、南側の窓に面して2層吹き抜けを設けている。そして5階の個室と吹き抜けを仕切る部分に、縦2226mm、横2160mmのステンドグラス構造の壁をはめ、耐震性を高めた。
設計は東洋大学ライフデザイン学部教授で、インテルメディア・デザインスタジオ(東京都板橋区)を主宰する櫻井義夫氏が担当し、構造を佐藤淳構造設計事務所(東京都港区)を主宰する佐藤淳氏が手掛けた。
住宅のオーナーは、芝浦工業大学工学部建築工学科の伊藤洋子教授。伊藤氏は以前から講義などで佐藤氏と知り合いで、佐藤氏が研究していたステンドグラス構造に関心を持っていた。
櫻井氏は、「もともと鉄骨造だけで十分な耐震性を持つように設計している。だが、建物の細長い形状は風や地震で上階の揺れが大きくなることも予想され、建物の短手方向に対して耐震性能を持つ壁を入れられることは有効だった」と言う。建築基準法上は余力として扱っている。
ステンドグラス構造は、佐藤氏が5年ほど前から研究を続けてきたアイデアだ。これまで別の割り付けのパターンでも破壊実験などを繰り返してきた。実際の建物での使用はこの住宅が初めてとなる。
「透明な素材に耐震性能を持たせることを目的として研究を始めた。アクリルなど樹脂系の透明素材もあるが、ガラスはその30倍程度の硬さを持つ」(佐藤氏)
さらに、ガラスは硬さに比例して、座屈に対してもアクリルなどと比べて30倍の強さがあるので、圧縮材として使える。ステンドグラス構造は、鉄骨のフレームに対して、ガラス面が圧縮ブレースの役割を果たすという考え方だ。
一般的に窓はガラスと枠の間にクリアランスを設けることが多い。だが、ステンドグラス構造では、ガラスをフレームにしっかりと拘束している。鉄骨フレームの接合部に、緩衝材としてスズを使っていることもポイントだ。
「スズは粘土のような軟らかさを持つ金属で、弾性を利用したバネなどとは異なる仕組みで力を吸収する。紫外線劣化しない利点もある」と佐藤氏は説明する。