卍形で座屈に強く
建物南面の外壁にある窓のメンテナンスをしたり、空気を5階に取り入れたりするため、ステンドグラス構造の一部は開閉できる窓とした。それも踏まえ、ガラスの配置や模様は櫻井氏、色の組み合わせは伊藤氏がデザインした。
構造を担当した佐藤氏からの要望は1点のみ。「鉄骨フレームの組み方が卍(まんじ)形になるようにしてほしい」というものだった。
なぜ卍形なのか。鉄骨フレームをグリッド状に並べると、力をかけたときに鉄骨同士の接点で座屈しやすくなる。一方、鉄骨フレームが全体の縦や横を貫かないような卍形の組み合わせ方をすると、力が通り抜けず、座屈に強くなることが実験で分かった。その実験では、鉄骨が縦横に貫いていなければ、曲線でも同程度の耐震性能を発揮することを確認できた。
ステンドグラスではなく、1枚板のガラスを分厚くして強度を上げ、耐震壁とすることも不可能ではない。ただ、佐藤氏は「ガラス1枚壁の構造は変形能力がやや乏しい。ステンドグラスの細い骨組みは、見付けが細いので透明性を損なわず、しかも延性を確保できる。エネルギーを吸収する構造として将来、期待できる考え方だ」と言う。
さらに理論上は、ステンドグラス構造で2階建ての建物を建てることも可能だと言う。佐藤氏は近いうちに小さな東屋を試験的につくりたいと意気込んでいる。
課題の1つが施工性だ。鉄骨フレームは5つ程度のパーツに分けて現場に持ち込み、溶接した。水平面が傾かないように、細心の注意が必要となり、熟練した技が求められる。それでもなお、透明な耐震壁の魅力は今後ますます注目されるだろう。
[日経アーキテクチュア 2017年3月23日号掲載]