「安藤忠雄 住宅 増補普及版」

「安藤忠雄 住宅 増補普及版」の表紙
「安藤忠雄 住宅 増補普及版」の表紙

 人は、2種類に分けられる。安藤氏の設計した家に住める人間か、住めない人間か──。

 本書では、安藤氏にとっての設計の原点であり、また終着点でもある「住宅」について氏が大いに語る。その間に挟みこまれた「施主からの手紙」は、「安藤建築に住まうこと」の「喜び」もさることながら、「その生活がいかに厳しいものか」というクライアントたちの生の言葉を伝える。

 ところが彼らは、厳しい「安藤住宅」に住んでいるにもかかわらず、一見人を寄せ付けない素材である「コンクリート」の住宅に「温かみ」を感じたり、工夫しながら暮らすことに「楽しみ」を見いだしたりしている。それは、依頼された段階で「自分のつくる住宅は住みにくい」と正直に伝える安藤忠雄氏と、室内にいながらにして自然環境との対峙を迫ってくる住宅に対する、彼らの「闘い」にほかならない。

 「生涯をかけて『この家と付き合っていくんだ』という思いのある人と一緒につくりたい」と言う安藤氏の「挑戦」を受けて立つことのできる人は、たぶんそう多くはない。この便利すぎる時代に「『住まう』とは何か」「『豊かさ』とは何か」を住み手に考えさせる安藤氏の住宅は、クライアントと安藤氏の「禅問答」の器だ。

著者:安藤忠雄
判形:A5判
ページ:280ページ
出版社:ADA
発売:2017年9月
定価:本体1600円+税