体験価値がIoT住宅に必要

――昨今話題のIoT住宅は、HEMSで描いていた家電や設備などの制御をベースに開発するということか。

乃村:いわゆる住宅のIoT化の分野で事業化を目指しているのは、通信インフラを持つキャリア系とベンチャー系がある。これらの企業の大半が取り組んでいる現時点でのやり方では、ビジネスになりにくいと感じている。

 例えば、通信インフラを持つキャリア系のケース。スマホで家電や設備を操作できるようにして、その機能に対して継続的に課金する仕組みを構築しているタイプが多い。だが、スマホがリモコンになったことに、どれくらいの人が魅力を感じるのかが疑問だ。魅力を感じてもらえなければ、そのビジネスモデルが成立するのは難しいだろう。

ソウセイの乃村一政社長は、HEMSの開発なども手掛けた経験がある(写真:日経ホームビルダー)
ソウセイの乃村一政社長は、HEMSの開発なども手掛けた経験がある(写真:日経ホームビルダー)
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 他方のベンチャー系は、IoT機器を大量に売ることで収益を伸ばすビジネスモデルが少なくない。ただ、このやり方にも限界がある。IoT機器からデータを集めてマネタイズするにしても、どのような人がどのような住宅に住み、どのようにIoT機器を使っているのかの情報がひもづいていないことが多く、集めにくいだろう。収集したデータを活用するには、これらの属性データが連動していなければ価値はない。

――どうすればビジネスモデルが成り立つ住宅のIoT化が実現するのか。

乃村:重要なのは体験価値のあるコンテンツをいかに利用者に提供するかだ。

 住宅市場では建て主のニーズが多様化していると言われているが、共通した傾向もあるようだ。若い世代を中心にシンプルで無駄のない使いやすい住宅が好まれるようになってきたと感じている。彼らは「モノ」よりも、体験やライフスタイルなどの「コト」に喜びや価値を感じている傾向があることがその理由だろう。住宅のIoT化でこの「コト」の鍵になるのが音声による操作だ。

 今後、日本語対応のAIスピーカーが続々と登場してくる。これらへの対応は必要だろう。われわれが提供する住宅向けのOS「v-ex(べクス)」は、米アマゾンの会話型AI「Alexa(アレクサ)」とAIスピーカーの「echo(エコー)」に対応している。

 利用イメージはこうだ。「べクス、テレビつけて」「エアコンつけて」と言えば、リモコンを使わなくても、家電や設備の操作ができる。温度計や時計を見に行かなくても「ベクス、今、何度?」「今、何時?」と聞けば答えてくれる。家庭内では音声による操作が当たり前になっていくだろう。

ベクスの音声操作の仕組み概要図。WiFiや赤外線、Z-Waveなどの通信技術に対応する(資料:ソウセイの資料を基に日経ホームビルダーが作成)
ベクスの音声操作の仕組み概要図。WiFiや赤外線、Z-Waveなどの通信技術に対応する(資料:ソウセイの資料を基に日経ホームビルダーが作成)
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 ベクスには、家庭内で決済ができる機能「v-ex Pay」を搭載する予定だ。コンビニで支払う際に使用する振り込み用紙をそのまま利用。記載されたバーコードを読み取って決済処理を行う。住宅に決済機能を搭載すれば、地域経済の活性化にも役立つのではないかと考えている。

 地域を限定したサービスなども提供しやすくなるだろう。例えば地域を限定したクーポンを発行するサービスを検討中だ。従来、新聞の折り込みチラシなどに紙の割引クーポン券を入れて配っていたのを、ベクスを通じて配るイメージだ。ネット通販と連携しておけば、v-ex Payで決済してクーポンを利用しながら購入まで終わらせられる。

――住宅がIoT化することで、ほかにどのような変化が現れるのか。

乃村:住宅のIoT化は、住宅会社にとっても大きなメリットがある。その1つが、経営の効率化だ。

 ベクスは、様々なセンサーとつながる利点もある。しかも、電源が取りにくいような場所にも設置可能だ。

 ベクスで対応した無線通信規格は「Z-Wave(ゼットウェーブ)」だ。消費電力が少ないのが特徴で、日本では信頼性が高い周波数の920MHz帯を使用する。省電力タイプなので、様々な部位に設置して多様なデータを取ることが可能になる。

最新技術や機器などの展示会「CEATEC JAPAN 2017」では、Z-Waveのブースも出展していた(写真:日経ホームビルダー)
最新技術や機器などの展示会「CEATEC JAPAN 2017」では、Z-Waveのブースも出展していた(写真:日経ホームビルダー)
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 例えば「トイレの水を1日に何回流したか」「キッチンの扉を1日に何回開け閉めしているか」など、住宅設備メーカーでも知ることが難しい、住設機器の実際の使われ方のデータが取れる。

 このようなデータがあれば、事前に点検や保守のタイミングを知ることもできるだろう。これまでのような、故障やトラブルが起こってから建て主が工務店などに連絡して、その後、工務店から住設メーカーや専門工事業者に連絡し対応してもらうといった流れがガラリと変わる。問題が生じる前に対応できれば、点検や保守の負担を大幅に減らすことができ、経営の効率化にも役立つ。

 住宅業界は今後、新築住宅の需要減が見込まれているだけでなく、人手不足の深刻化も懸念されている。従来と同等の新築棟数を手掛けようとしても、これまで10人で担当していたオペレーションを、半分の5人で対応せざるを得ない可能性も出てくるのだ。このような時代になっても、ITを上手く使い効率化しておけば従来通りに対応が可能になる。

 実は住宅をIoT化する最大のメリットは、家づくりや点検、保守の効率化を実現することにあるのだ。


後編では、ベクスを普及させるソウセイの戦略に迫る。

(注1):欧米では住宅全体の温度管理は全館空調で担う仕組みが主流で、その中心となる装置がサーモスタットだ。ネストは2014年1月に米グーグルに32億ドル(約3600億円)で買収され、グーグルのスマートホーム戦略を担っている。ファデル氏はネストを16年6月に退社した。