事業主を納得させる

──省エネを図るには、事業主に納得してもらう必要があります

 基本的には、省エネについての考え方を受け入れてもらえるかどうかがポイントだと思います。その裏付けは、やはりシミュレーションの積み重ねです。

 設計上のシミュレーション技術や環境の解析などは、最近になってかなり進化しています。私の設計では、温度や明るさなどをシミュレーションする場合が多く、まず設計段階にコンピューター上で検討し、さらに模型上でも検証します。

──現在の省エネ基準を上回る性能の建物を目指しているのですね。

 そういった建物を実現しようと思っても、これまでにないような突出した提案は社会からはなかなか評価されません。ですから、もっと温室効果ガス削減などの取り組みを盛り込んだ“とがった”建築を「よし、やろう」と言ってくれるような風潮になってほしいですね。私が独自の考え方の省エネ建築に挑めたのも、まさに事業主が賛同してくれたおかげですから。

──建築の設計手法は適合義務で変わりますか。

 私が興味を持っているのはやはり、人間の暮らしがどのようによくなっていくかということです。それを目指して、建築や社会がどの方向に行けばいいのか、いつも考えます。

 省エネに関する技術革新を追い求めることは、まず絶対に必要です。その一方で、それとは異なる次元にある、多くの人間にとって普遍的な心地よい暮らしや環境を考えることも重要です。適合義務化はそうした方向を探るきっかけになるのではないでしょうか。例えば、全く新たな技術を開発しようとすると、これまでとは発想を切り替えなくてはなりません。適合義務は設計者にとってチャンスかもしれませんね。

──適合義務について今後の課題はどうお考えですか。

 我々のような小規模な意匠設計事務所は、省エネルギー計算を外注することが多いです。その外注コストを、設計・監理に付随する「標準外業務」の費用として事業主が認めてくれるかどうかは、シビアな問題です。

 延べ面積2000m2以上のビルなら、外注費は少なくとも修正を含め50万~60万円は掛かります。別途、請求しやすくなるようなルールをつくってほしいですね。

大きなワンルームの屋内は、半外部空間、ラボ空間など温度環境の異なる4つの場を設けた。社員は好みの温度環境の場に移動可能。大屋根からの採光を利用し、光天井とした(写真:新井隆弘)
大きなワンルームの屋内は、半外部空間、ラボ空間など温度環境の異なる4つの場を設けた。社員は好みの温度環境の場に移動可能。大屋根からの採光を利用し、光天井とした(写真:新井隆弘)
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