工事監理を重視

──省エネ基準を活用していくことで、温室効果ガスの排出削減の目標が達成できるのですね。

 16年11月4日に発効された、地球温暖化抑止を目指す国際協力の枠組み「パリ協定」により、各国は産業革命前からの気温上昇を2℃以内に抑えることを目指します。日本は温室効果ガスを13年度比で30年までに26%、50年には80%削減すると表明しました。30年は業務その他部門(ビル)で約40%、家庭部門(住宅)で約39%の削減が目標です。ただ、それらをすべて建築物で背負うのではなく、電力の低炭素化によってその3分の2程度を負担するようなシナリオになっています。

 今後、新たな要素を組み込まなくても、先に話した定石を組み合わせれば目標は達成できると私は見込んでいます。

 実務者は根拠のない性能情報に惑わされずに、きちんと効果があり、コスト妥当性のある建材・設備を選んで使うという地道な対応が重要です。しかも、それを設計図面通りに施工して設置しなければなりません。

世界の温室効果ガス削減の目標と手段
世界の温室効果ガス削減の目標と手段
13年9月、「環境エネルギー技術革新計画」が改訂された。既存技術の向上・普及と革新的技術の開発の双方によって50年までに世界全体の温室効果ガスの50%削減を目指す。既存技術には省エネ住宅・ビルも含まれる(資料:総合科学技術会議資料を基に作成)
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ビルと住宅の温室効果ガスの排出削減が重要
ビルと住宅の温室効果ガスの排出削減が重要
30年に向けての各部門の温室効果ガスの排出削減の目安。他の部門に対して、ビルを示す「業務その他部門」は40%、住宅を示す「家庭部門」が39%と、大きな削減率となっている(資料:環境省)
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──適合義務化では工事監理を重視しています。

 そうです。また、制度上、審査側は最後に完了検査として現場を見に行きます。現場のすべてではありませんが、その際にアトランダムにチェックできます。この確認で、審査される側には、「ちゃんとやらなくてはならない」という緊張感が誘発されると思います。それも大切なことです。

──既存建物の扱いにおける省エネはどうなりますか。

 既存建物の改修は次の重要な課題です。新築の義務化が落ち着いてからですね。ただ、設備機器は更新時期が来ると定期的に入れ替わっていきます。トップランナー制度のような設備機器に対する施策によって、省エネ化が徐々に進むことはあるかもしれません。