省エネ知識の普及を
──実務者に向けてはどのようなプロモーションが有効でしょう。
省エネで快適な住宅のための合理的な建築技術の確立と普及を目指す「自立循環型住宅」のための設計ガイドラインをまとめました。そうした実務的なノウハウを盛り込んだ教科書のようなものがもっと必要なのだと思います。
大学の先生は得てして研究肌で、実務に落とし込んで説明するのが得意ではない方もいらっしゃいます。そういう方々の研究成果を“翻訳”して実務者に分かりやすい形にまとめたり、伝えたりする役割も必要ですね。
──非住宅分野に、そういった方はいらっしゃいますか?
非住宅は知識が整理されていない部分が多いようです。でも、外からは完成された領域のように見えるので、なかなか踏み込めません。住宅分野ほど、知識や情報の流れもよくないので、“翻訳”は難しいのかもしれません。
──建築の専門家が縦割りだからでしょうか。
一つの要因かもしれません。戸建て住宅でしたら、工務店の担当者が網羅的に把握しています。規模が小さいから確認もしやすい。ビルはさまざまな専門家が関わり、それぞれチェックする必要がありますね。
──どうしたらそのような状況は変わりますか。
省エネ基準の策定では、言ってみれば建物の省エネルギー性能の物差しをつくろうとしたわけです。その物差しが一次エネルギー消費量です。それぞれの建物に対して、1m2当たり年間何メガジュールの一次エネルギーを消費するのかを計算します。
ですから、どんなに大規模な建物でも物差しは一つだけです。関わる人たちの共通言語になると思います。
──その物差しを正確に設定して、建築に生かすことが求められます。
使用する建材や設備機器などの省エネ性能と計算値がちゃんとひも付いていて、かつ設計図書に書いてある内容を実現してもらわないといけません。ですから、工事監理者の役割はとても重要になりますね。
工事監理者が中心になって、設計図面通りにつくられているか、設計図に描かれている設備機器、あるいはそれを上回る性能の機器が正しく設置されているかなどを確認することが大切です。
──他の関係者の役割は?
確認検査機関の役割も大きい。設計図書にのっとって、きちんとデータが入力され、一次エネルギー消費量が正確に計算されているか、基準値と比較して許容範囲なのかを確認します。
一方で、建材・設備メーカーは、設計図書に記載されている製品の性能が本当にデータ通りかどうかが問われます。そのためには、各製品の試験方法が明確でないといけません。その点は、これから適合義務化を進めながら改善していきます。一部の設備機器は評価の試験方法が未整備ですから。
こういった必要な情報が積み重なり、頂点に一次エネルギー消費量の計算方法があるイメージです。信頼性のあるものにするために、きちんとした知識体系をつくっていく必要もあります。
──申請書類に記入する情報は膨大になりそうです。
その点を勘案しながら申請する内容を精査してきましたし、簡略化した計算方法「モデル建物法」も開発しました。とはいえ、大事なのは書類を提出すること自体ではなく、書類の内容が現場に反映されていることです。
──計算方法の正しさは、どのように裏付けているのですか。
開発過程において数多くの実測や実験を実施しました。住宅では、経産省が補助事業を実施した影響で、すでにZEHは1万棟以上建っていると思います。各住宅の実際の一次エネルギー消費量のデータが回収でき、国交省も経産省も申請時の計算値と比較をしています。それによって、計算による予測の確度を検証できます。
ビルでもZEH制度と同様に、今後検証・再確認すればいいと思います。
──今後、新たに計算方法に加わる要素はありますか。
実を言うと、あまりないのではないかと考えます。省エネには、実は定石がたくさんあって、定石を組み合わせて設計してもらうだけでもほぼ十分な省エネ性能が確保できます。断熱や日射遮蔽、住宅なら高効率給湯器、エアコン、発光ダイオード(LED)照明などですね。
それらの定石の組み合わせ方によって、省エネ基準にのっとって建物の省エネ性能は評価できます。あとは、イニシャルコストや維持管理のコストを勘案して、設計者が最も割安に省エネ効果を達成できる定石を選んでいってくれればいい。
価格的に競争力のない定石は徐々に使う人が減り、競争力のある定石は使う人が増えてさらに価格が下がっていきます。そういうメカニズムになっていくと思います。