互いにどう連携するか

 続いて、澤地氏は3つのテーマを各パネリストに投げかけた。

パネルディスカッションで議論した3つのテーマ(資料:日経BPインフラ総合研究所)
パネルディスカッションで議論した3つのテーマ(資料:日経BPインフラ総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 最初のテーマは「適合義務化にどう対応するか」。これについて髙橋氏は、省エネ判定機関の立場から、以下のように述べた。「省エネ適判で注意すべき点は、例えば物流倉庫。冷凍・冷蔵庫や無人工場は省エネ計算は不要とされているが、事務所部分には省エネ基準の適合が求められる」。

 次のテーマは「ステークホルダー(関係者)が互いにどう連携するか」。小堀氏は「省エネ建築をつくろうとした場合、意匠設計者は初期段階から設備設計者やエンジニアと議論する必要があると思う。人にとっての心地よさを配慮しない、単に省エネ基準をクリアするだけの建築物にはならないようにしたい」と話した。

 高井氏は過去の経験を踏まえ、「これまでステークホルダーが密に連携する機会はあまりなかった。今後は、省エネ適判に関する現場での対応について、どのように対処するかをステークホルダー間で話し合うべき。例えば、現場の状況によってはガラスラベルを完了検査まで貼ったままにしにくい場合もある。施工計画書とガラスラベルを使い分けるなど工夫がいる」と提案した。

 杉山氏はクライアントとの関係性についても言及。「ステークホルダーの中では、クライアントとの連携が最も大切ではないか。省エネ適判の手続きが加わって手間や設計・監理料などのコストが増えるのはもちろん、一次エネルギー消費量を抑えることの社会的意義をきちんと説明して理解してもらうようにしたい」。

 木下氏は、「ガラスメーカーは、日射を遮蔽したい、あるいは取り込みたいなどそれぞれのケースに合わせた熱性能を提案できる。色合いや防犯性なども含め、設計事務所や建設会社のニーズを聞き取り、提案するといった連携も図れるようになりたい」と説明した。

 髙橋氏は、「テナントや居住者など実際に使用する方々に、建物の省エネ性能について理解してもらうことも重要。そのためのツールとして、理解しやすいBELSの併用が肝になる。省エネ性能の高い建物が、ヒートショックやアレルギーなどの予防に結び付く可能性があることなども伝えてはどうか」と述べた。

 最後のテーマは「これから建築はどう変わるか」。小堀氏は、「省エネ基準をクリアすることだけに目が向いても建築は変わらない。省エネによって、どのような暮らしを目指すか、ステークホルダーが一緒に考えていくことで建築も変わるはずだ」と訴えた。

 パネルディスカッションの最後に、国土交通省建築環境企画室長の山下氏がシンポジウム全体を踏まえて、参加者にメッセージを伝えた。「みなさんにお伝えしたいことは主に3点。1つ目は、我々は省エネ基準の適合義務化に関する一連の手続きが円滑に行えるよう、今も準備を進めていること。過度に厳格にすることはないが、基準をクリアしているか否かをしっかり確認する体制を整える。2つ目は、適合義務化は建築物の省エネ性能の底上げの第一歩であるということ。これを起点に、より高い性能を競うようになってほしい。3つ目は、2000m2以上の大規模非住宅の新築を主とした適合義務化を機に、それ以外の多くの建築物についてもさらなる省エネ化を期待している」。

国土交通省住宅局住宅生産課建築環境企画室長の山下英和氏(写真:清水盟貴)
国土交通省住宅局住宅生産課建築環境企画室長の山下英和氏(写真:清水盟貴)
[画像のクリックで拡大表示]

 最後に日経BPインフラ総合研究所の小原上席研究員は、「まず、省エネ適判に慣れることが大切。来場者の皆さんにはこのシンポジウムで得た情報を、各現場のステークホルダーと共有していただきたい」と話し、シンポジウムを締めくくった。

日経BPインフラ総合研究所上席研究員の小原隆(写真:清水盟貴)
日経BPインフラ総合研究所上席研究員の小原隆(写真:清水盟貴)
[画像のクリックで拡大表示]