10月21日に東京・目黒雅叙園で開催された「木材活用フォーラム2015」。「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」の活動報告を兼ねたセッション会場には多くの聴講者が訪れた。中高層オフィスでの木材活用がどのような付加価値を生み出すかをテーマにした午後の「セッション2」に続き、「セッション3」ではマンション・住宅分野で「木づかい」をさらに広げていくための重要な戦略が語られた。
【登壇者】
- 三菱地所 環境・CSR推進部 主事 見立坂 大輔 氏
- ツクルバ 代表取締役CCO 中村 真広 氏
- 山梨県北都留森林組合 参事 中田 無双 氏
- 林野庁 林政部 木材産業課 住宅資材班 住宅資材企画係長 中村 誠 氏
【モデレータ】
- 日経BP社 日経BPインフラ総合研究所所長 安達 功 氏
安達(日経BPインフラ総合研究所): セッション3は「共感と循環で差別化を図る木づかいのストーリー戦略」がテーマだ。これまでの研究会は、中高層建築・住宅でどうやって木材を使っていくかを検討・議論してきた。そのなかで、消費者が相手となるB2Cの世界では、共感やストーリー性などの戦略を描くことが重要だろうという意見があった。そこで、今回のセッションのテーマとしてこの問題を取り上げることにした。
まず、ご登壇いただいたパネリストに、それぞれの取り組みを話していただく。その後で、木材が持つストーリー性や共感を、企業の価値につなげるにはどうしたらよいかについて、ディスカッションしたい。
まず、見立坂さんに三菱地所の取り組みをお話しいただく。
見立坂(三菱地所):最初に、三菱地所グループでの木材の活用事例を紹介する。
どうして環境と社会貢献活動(CSR)をやっている私からマンションの話をするかというと、もともと当社ではCSR活動でやっていた森林再生への取り組みが分譲マンションの商品企画に最終的に結びついている。こうした背景があることにご留意いただきながら私の話を聞いていただけるとありがたい。
都市と農山村をつないで課題解決を一緒に考える
見立坂:当社は総合デベロッパーで、ビル事業からホテル事業まで多種多様な事業に取り組んでいる。企業活動の一環として社会貢献活動に取り組むなかで、当社らしい取り組みをしっかりやって、社会課題をきちんと解決したいと考えている。
その具体的な取り組みが「都市と農山村をつなぐ『空と土プロジェクト』」だ。これは、当社と山梨県北杜市と連携して「農山村で抱えている課題」と「都市で抱えている課題」について、手を取り合ってそれぞれの課題を解決していきましょうという取り組みだ。一方的にこちらからCSRのお金を出すという関係ではなく、都市と農山村のお互いが協力し合ってお互いの課題を解決する関係こそが、持続可能な取り組みとして機能していくのではないかという仮説に基づいている。
山梨県北杜市は、国蝶のオオムラサキが獲れる綺麗な場所だ。しかし、耕作放棄地が広がる過疎地域である。そこに、当社グループの社員がデベロッパー魂をもって開墾して棚田を再生し、毎年、田植えと稲刈りのツアーを行っている。その結果、「純米酒丸の内」というお酒が作れるくらいの取り組みになってきている。
さらに、田んぼだけではなくて山にもかかわっていこうということで、間伐体験ツアーを行っている。切り出した間伐材を使って小屋を作った。また、楽しむばかりではなく、ちゃんと事業につなげていこうと定例会議やワークショップの機会を持ち、検討を行った。
その結果、まず、グループ会社の注文戸建て住宅で山梨県産材を使っていく取り組みを始めた。この取り組みは、おかげさまで2013年にグッドデザイン賞を取得した。
戸建て住宅に木を使うのはある意味で当たり前だ。使用量を考えると、当社グループではマンションのほうが圧倒的に多いので、マンションで国産材をどのように使っていくかがいまの大きな課題である。ようやくかたちになってきたプロジェクトがあるので紹介したい。
西新宿に計画中のザ・パークハウス西新宿タワー60だ。60階建て、再開発による954戸の超高層マンションで、竣工は2年後だ。その共用部に国産木材を使おうと計画している。建物は超高層なので、構造を木造にするわけにはいかない。ただ、共用部の内装をふんだんに木質化することによって、居住者のコミュニティー形成に役立てられるのではないかと考えている。
その共用部を「ENGAWA(エンガワ)」と名付けて、国産材を床、壁に張り巡らし、木の家具を置いて、コミュニケーション、集会や子どもの遊ぶ場として利用する。我々だけでなく、空間監修をWISE・WISE(ワイスワイス)という国産家具を作っている家具メーカー、デザイン監修は東京おもちゃの美術館という団体と連携しながらプロジェクトを進めている。
この事業は再開発であり、元々住んでいた地権者と新しく住む方がいる。木を使った施設をつくると、世代も出身も違うそうした人たちを一つに結びつけるよい空間が出来るのではないか。木が人々を結びつけるストーリーづくりができるのではないかと考えて取り組んでいる。
今後の展開としては、国産木材をマンションでもっと使っていこうと考えている。見えるところからはじめて、見えないところでもしっかり使っていきたい。
国産木材を使うことによって、国内の農山村の森林再生と当社グループの本業である都市再生を両立させていく。それこそがデベロッパーの使命だと考えている。
安達:いま分断されている農山村と都市をつなげ、さらにCSRと共通価値の創造(CSV)をつなげようと考えた結果、マンションの共用部に木材をたくさん使うという一つの答えが出てきたということだろう。
何といっても、国産木材による空間づくりがコミュニティー形成にかなり寄与できるのではないかという木づかいによるストーリー戦略を展開している点に注目したい。
続いて、ツクルバの中村さん、お願いします。