林業と建築業が連携して経済を回す

小原(日経BPインフラ総合研究所):松永さんの報告では、数百人規模の村で林業と建築業が連携して経済を回す事例が見られた。日本でも参考になるのではないか。

伊藤(三井住友信託銀行):私は、「国連環境計画・金融イニシアティブ」というネットワークの中で、海外の持続可能な不動産投資を考える方々とよく意見交換している。そこで話に出る日本の七不思議は、いずれも国土の森林率の高さに関わっている。日本は森林がフィンランドに匹敵する7割近くを占めているのに、「なぜ木材を輸入するのか」「なぜもっとバイオマスをやらないのか」と問われる。

 松永さんの報告の中にも、一次エネルギー総供給量の22%を木質エネルギーが占めている国があった。そこに、木質エネルギーの可能性を感じる。その過程の中で木材そのものを建築資材として利用することも合わせて、大きな可能性を感じている。

 日本では、北海道下川町のように、森林産業とバイオマス発電を組み合わせて、エネルギーの町内自給化を進める試みがある。また、岩手県紫波町のオガールタウンでは、木材を使った建築とともにバイオマスによるエネルギーセンターを設置している。こういった事例がこれからの木材に関わる事業のモデルになると思う。

小原(日経BPインフラ総合研究所):日本でも木材に関わる産業が、地方に広がる可能性がありそうだ。

近藤(桧家ホールディングス):オーストリアのグラーツ工科大学に視察に行った際に、同大学でCLT(直行集成板)の第一人者でもある先生が研究に携わっており、関連する研究施設が非常に充実していた。建物はCLTで構成され、ちょっとした町工場ほどの規模だ。実験設備も整い、企業から依頼された試験やCLTの部材の研究開発などが行われていた。このように欧州の木造建築は、教育機関の研究が下支えしている。今後、日本でも木造建築を広めるには、産学連携の体制が課題だ。

小原(日経BPインフラ総合研究所):最後に、これまでのみなさんの話をもとに服部さんから意見を伺いたい。

服部(林野庁):日本は木の文化の国だとして、木に慣れ親しんできた。しかし、近代では木造は住宅が中心だった。松永さんの報告をお聞きすると、欧米では木造の中高層ビルの建築がかなり進んでいることが分かる。日本は木に関する技術が進んでいると思っている人は多いだろうが、実は欧米に比べれば少し遅れていて、取り組みはまだ緒に就いたばかりだ。

 欧州が木材の活用に先んじているのは、松永さんの話によれば環境の側面が大きい。木材活用は地域の振興、地方創生にも貢献するが、日本は海外由来のエネルギーや木造でも輸入材を使うので、地方への貢献は限定的なのが現状だ。今後、国内でも木造の技術を高め、環境に貢献するような材料を国産材で提供できるように尽力していきたい。

「木材活用フォーラム2016」セッション4の様子(写真:菊池一郎)
「木材活用フォーラム2016」セッション4の様子(写真:菊池一郎)
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