違法伐採の現状

林野庁 林政部 木材産業課 木材製品技術室 課長補佐 服部浩治氏(写真:菊池一郎)
林野庁 林政部 木材産業課 木材製品技術室 課長補佐 服部浩治氏(写真:菊池一郎)
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服部(林野庁):2016年5月に違法伐採に関する法律が成立して17年に施行の予定だ。そこで、この場を借りて「違法伐採」の現状と取り組みを簡単にご紹介する。

 途上国を中心に森林は州政府が保有するケースが多い。そのため、森林での伐採やそこから出た木材の流通は法律で厳しく規制されている。そういった規制を逃れて伐採することを違法伐採という。

 違法伐採には、森林の減少のきっかけとなり、地球温暖化や生物多様性の損失などの大きな問題がある。再生産に必要なコストの支払いがなく、先進国に輸出されてその国の木材の価格を下げ、輸入国での持続可能な森林経営の阻害要因となるケースもある。また、違法伐採が軍部の公的機関の汚職やテロ組織の資金源になっている面も、世界的に問題になっている。

マレーシアとベトナムの違法伐採の発生事例(資料:林野庁)
マレーシアとベトナムの違法伐採の発生事例(資料:林野庁)
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 違法伐採の問題は1998年以降、主にG8サミットで議論され、最近はアジア太平洋経済協力会議(APEC)の枠組みでも議論されるようになった。これを受けて最初に米国が法的な対策に取り組んだ。米国には1900年に成立した、違法に捕獲された鳥類や動植物の取引を防止するレイシー法がある。08年にこの法律の対象に木材や木製品を加え、違法伐採されたものの取引を規制している。罰則があり、罰金や刑事罰もあるが、基本的には政府は調査をしない。NGOの告発で調査、訴追する枠組みだ。

 一方、欧州連合(EU)には10年に成立した「EUTR (EU Timber Regulation)」がある。違法に伐採された木材のEU市場への入荷を禁止し、そのような木材を取引する人はデュー・デリジェンスを行うことになる。これについては各国が国内法を整備して罰則を設け、定期的にモニタリングし、罰則を適用する。デュー・デリジェンスでは、基本的に木材に関する情報を確認してリスクを評価し、リスクが高いものは代替措置を取るなどの対応を求める。

 日本では00年にできたグリーン購入法の枠組みをもとに、06年に「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」を策定した。そこでは、違法伐採されていない、合法性が証明された政府調達などの木材を使うよう促している。その調達基準の民間への普及をめざし、取り組みを行ってきた。

 16年5月に成立した「合法伐採木材などの流通及び利用の促進に関する法律」の対象の中心は事業者だ。同法律では木材関連事業者は、合法木材を利用するように努める義務が重要とされている。罰則はないが、法の策定に伴って、違法に伐採された木材を使わないという宣言をした事業者が「登録木材関連事業者」として登録する仕組みが設けられた。

 国内では違法伐採はほとんどないと考えているが、輸入された木材への依存も大きいので、今後も、より多くの関係者が安心して木材を使える環境を整備していきたい。

「合法伐採木材などの流通及び利用の促進に関する法律」の概要。主に事業者を主眼にした点が特徴(資料:林野庁)
「合法伐採木材などの流通及び利用の促進に関する法律」の概要。主に事業者を主眼にした点が特徴(資料:林野庁)
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