フィンランド、オーストリア、スイスの事例
松永(近代建築研究所):私は設計事務所を経営している。一方で、HEAD研究会という一般社団法人にも参画しており、会員とともに木造建築を研究している。今回は私が独自に調査したフィンランドとオーストリア、スイスの事例を紹介していく。1~2年前に得た情報をまとめたものだ。
最初はフィンランドだ。フィンランドは日本よりやや小さく、一次エネルギー総供給量の22%が木質エネルギーだ。今回は、ミサワホームの製材工場があるミッケリと、木造の大型コンサートホールがあるラハティ、首都ヘルシンキについて話す。
ミッケリはヘルシンキから220㎞ほど離れている。真っ平で、見渡す限り森で覆われている。ミサワホームは、米国での原木の価格高騰に対応するために、1994年からここで製材を開始した。
この工場の大きな特長は、原木のうち製材に40%を使い、残りはチップに加工してバイオマス発電所に回すなど、無駄なく使いきることだ。小さな工場で年間8万2000m3の製材を行っている。隣接するバイオマス発電所にチップを供給し、そこでつくられた温水を木材乾燥に使う。発電所は市内に電力を供給する。
原木は巨大な選別機を使用し、自動化で製材している。製材工場の規模からすると、従業員は30人ほどと少ない。製材された木材は日本に運ばれ、ミサワホームの木質系工業化住宅に活用される。
ラハティは、さまざまな建築物を木造で建てるために、国際的に活躍している建築家を招いている。最も有名なのはシベリウスホールだ。名称は、フィンランド生まれの著名な作曲家、ジャン・シベリウスに由来している。既存のレンガ造りの工場を木造で増築し、1250席の音楽堂を完成した。外観全体がガラスで覆われ、夜は照明でライトアップされる。
街なかには他にも小型の木造建築が点在している。イタリアの建築家、レンゾ・ピアノが手掛けたカフェ「ピアノ・パビリオン」や、他の著名建築家がつくった公共トイレもあった。
ヘルシンキには、木造建築の教育で著名なアールト大学がある。同大学での木造建築の教育は、まず森の中に入って木の種類を学ぶところから始まる。重要なのは林業で利益を得ることにあるため、マーケティングなども含め林業について包括的に学ぶという。卒業設計の一等となった作品は実際に施工して、公開するのが慣例だ。
非常に注目を集めた卒業設計のひとつに3階建ての展望台がある。集成材に熱を加えながら曲げて、建物全体を一体化させる方法を取ったものだ。
次はオーストリアだ。西部の国境に近いフォアアールベルク州を紹介する。同州はスイスやドイツに接している。
注目を浴びているカナダ・バンクーバーの18階建ての木造ドミトリーは、オーストリア出身の建築家ヘルマン・カウフマンが設計した。彼の事務所はフォアアールベルク州にある。
現在、この地域には中高層の木造建築が複数建てられ、世界各国から見学者が訪れている。ヘルマン・カウフマン設計のオフィスビル「LCT ONE(ライフサイクルタワーワン)」は有名企業の集まるドルンビルン市内企業団地にある。8階建てで、鉄筋コンクリート(RC)造のコアと木製の梁・柱、RC床を組み合わせたハイブリッド構造。徹底したライフサイクルコストの削減と、ゼロエネ化のためにさまざまな工夫が盛り込まれた。カウフマンは同じシステムで20階建てまで建てられると発表している。
重要なのは「LCT ONE」を中心に、この地域でエネルギーが循環するというコンセプトだ。森から材木を搬入し、製材してこの建物をつくり、余った部分はチップにして地域暖房に使う。この建物を解体するときは、廃材をリサイクルして再利用する計画だという。
スイスは、フリンという、人口が300人に満たない小さな村について紹介する。フリンはスイスの伝統的な村落を維持するために、村内での循環型の地域経済を試みている。村の必要とする建物はすべて村の森の木を使い、地域の大工がつくる。この村も世界各国から視察が絶えない。
小原(日経BPインフラ総合研究所):松永さん、ありがとうございました。次に、林野庁の服部さんから、違法伐採の現状と各国の取り組みについてお話しいただく。