木造建築に最適な建物用途は?

三菱地所 新事業創造部 副主事 柳瀬拓也氏(写真:菊池一郎)
三菱地所 新事業創造部 副主事 柳瀬拓也氏(写真:菊池一郎)
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柳瀬(三菱地所):三菱地所は、主にRC造やS造を中心に中高層規模のいろいろな用途の建物をつくっている。このフォーラムに参加されている方は、木造の可能性に期待しておられると思うが、私どもも同様の理由で研究会に参加させていただいた。私からは、不動産事業者からの視点で木造を捉えて話させていただく。

 デベロッパーとしては、現状、木造建築をつくるとなると様々なハードルがある。そこで、現在の環境下において、木造でどのような建物を建てるのが最も有効であるかということを考えてみた。

 その前に、不動産開発において、一般的に建物用途をどのように決めているかを整理した。われわれは、まず、その土地の価値を最大限に高める建物の用途は何であるかを検討する。赤字で記したが、さまざまな建物用途について、図面を作成し、収支がどうなるかを何度も検証していくなかで、最も価値が高まるものを選定し、最適な用途を考える。例えば住宅やホテル、事務所、商業施設など、1つの土地に対して何パターンも検証する。

不動産開発における一般的な建物用途選定方法(資料:三菱地所)
不動産開発における一般的な建物用途選定方法(資料:三菱地所)
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 今日は、土地についてはひとまず除外して、木造建築という前提を固めた上で最も価値が高くなる用途は何かということを検証してみる。

 先ほど話したように、デベロッパーとしては事業収支の有効性を最大化することが一番大切である。つまり、安くつくることができ、たくさん稼げるのは何かということだ。収入や支出、ほかに、ファイナンスや会計といった視点で、以下の表にまとめた。

 木造建築に決めると、一般的なS造やRC造に比べてどのような障害があるだろうか。収入の面では、木造にしたことで、賃貸収入や売却価格が向上した事例はほとんどないのが実情だ。しかし、木造にしたから賃料や売却価格が安くなるという話も聞かないので、収入面ではほぼ同等だろう。

 ただし、木造建築では、建物をつくる工期が短縮できる。工期が短縮できるということは、家賃収入が入ってくる時期を早めることができ、その分収入が増える。一般的にRC造であれば1フロアをつくるのに1カ月かかるが、諸説あるものの木造の場合、1週間、あるいは1週間弱と短くなると聞いている。

 次に、支出面でどういう障害があるかというと、原材料である木材の調達価格が不安定、悪く言えば高くなるリスクがある。これに関しては、現在は需要者側が安定した需要をつくり出せないために、供給側は注文がある度に部材をつくるので、価格が落ちないという側面がある。これに関しての解決案は、現状では先に林野庁の佐々木さんから説明のあった補助金を有効に活用する手法もあるだろう。

 ファイナンスに関しては、先ほど、伊藤さんから説明があったが、中大規模木造への融資実績がまだ豊富ではなく、ファイナンスを受けるのが難しい。1つの解決案としては、企業の信用力でお金を借りて、事業のなかの1つとして木造を組み込むことができれば、それもありだろう。

 また、今回の研究会のなかでも議論されたが、木造にすると減価償却期間が例えば22年など、他の構造に比べて短くなってしまうという課題がある。これについては、複数の資産構成、ポートフォリオのなか、例えば償却期間の長いものと短いものを一緒に組み合わせることで解消可能ではないだろうか。

 以上の解決案を駆使していくことで、現状における障害をクリアできるのではないかと考えた。

木造を選択した場合の事業収支への障害と解決案(資料:三菱地所)
木造を選択した場合の事業収支への障害と解決案(資料:三菱地所)
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 では、これらのことを踏まえてどのような建物用途が一番良いか。私見だが賃貸住宅ではないかと考える。下図、左に解決案を書き出してみた。

 工期短縮に関しては、現状では中高層で建てられているRC造の建物を木造化することで、工期短縮するメリットが一番大きくなるだろう。

 次に補助金に関しては、新しい材料としてCLTが注目を浴びており、材料としてはこれを使うことで、補助金が獲得できる可能性が高い。

 ファイナンスに関しては、投資規模が大きく、機会が多いものが適している。以上、これらを考慮すると、いまの環境下において木造の中高層建物をつくるとすれば、賃貸住宅ではないかというのが私の導いた結論だ。

木造に最適な建物用途は賃貸住宅(資料:三菱地所)
木造に最適な建物用途は賃貸住宅(資料:三菱地所)
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小原(日経BPインフラ総合研究所):柳瀬さん、ありがとうございました。最後にアーク不動産の今井さんお願いします。