金融はこうあってほしい

三井住友信託銀行 不動産コンサルティング部 審議役 伊藤雅人氏(写真:菊池一郎)
三井住友信託銀行 不動産コンサルティング部 審議役 伊藤雅人氏(写真:菊池一郎)
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伊藤(三井住友信託銀行):私から発表するテーマは「中大規模木造を実現するファイナンスに向けて」としている。私自身は不動産業務に従事しており、金融側の立場ではないが、木材活用について金融はこうあってほしいという個人的な意見も含めてお話ししたい。

 まず、金融機関が融資する際の基本的な考え方を整理する。「融資の5原則」というものがある。これは、安全性、収益性、公共性、成長性、流動性の5つだ。この中で、安全性や収益性、流動性という面は、金融機関も民間企業の立場で資金を効率的に運用するという観点に基づいている。そのほかに、公共性として「公共的な立場からの融資」、また成長性として「企業の健全な成長を促す」という社会的使命が融資判断のなかに含まれている。

 この「融資の5原則」という伝統的な考え方に加えて、最近は「ESG投資」という新しい考え方がある。ESGというのは、投資分析と意志決定のプロセスに、E=環境、S=社会、G=ガバナンスの課題を組み込む考え方だ。

 06年に国連環境計画などが提唱した責任投資原則(PRI)というものがあり、世界中で1500を超える機関が署名している。これは持続可能社会の実現に向けた課題に向き合うことで、そこが成立しなければビジネスも成り立たないと、多くの金融機関が意識し始めた。日本でも現在50近くの金融機関が署名している。15年には年金積立金管理運用独立行政法人が署名したことで大きな話題となった。

 このほか日本では環境省がまとめた「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」というものがある。これはPRIと趣旨はほぼ同一だが、「21世紀金融行動原則」として、全国で251(16年10月1日時点)のさまざまな規模の金融機関が署名している。現在はこのような考え方が金融機関の仲で広まりつつある。

融資の5原則とESG投資(資料:三井住友信託銀行)
融資の5原則とESG投資(資料:三井住友信託銀行)
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 次に、最近の当社の取り組み例を2つ紹介する。1つ目は企業向け融資の「自然資本評価型環境格付融資」だ。これは、環境配慮に対する取り組みや、サプライチェーンの上流に遡って企業の地球環境負荷への低減についても併せて評価する。

三井住友信託銀行の最近の取り組み例1(資料:三井住友信託銀行)
三井住友信託銀行の最近の取り組み例1(資料:三井住友信託銀行)
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 2つ目は、個人向けの住宅ローンについてだ。特定の環境配慮型住宅について、全期間で一定金利を引き下げる取り組み。例えば「東京都環境配慮型マンション」は、東京都の環境計画諸制度に基づくマンション環境性能表示制度で一定ランク以上のものが対象になる。川崎市や大阪府、神戸市といった都市の環境配慮型マンションについては、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)の地方自治体版を使って、一定ランク以上のものについて優遇金利を適用している。

 中古住宅購入におけるリフォーム一体ローンもある。「スムストック」という優良ストック住宅推進協議会の定める条件を満たした認定住宅に対して、担保評価額の150%まで融資を行う。リフォームローンは金利が高くなりがちだが、これに住宅ローンと同じ優遇金利を適用するものだ。

三井住友信託銀行の最近の取り組み例2(資料:三井住友信託銀行)
三井住友信託銀行の最近の取り組み例2(資料:三井住友信託銀行)
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 もともと金融機関が融資に際して判断してきた公共性に加えて、近年はESG投資という考え方が入って来たのだが、本日のテーマである中高層木造建築の普及に向けて、これからの金融機関にどのようなことができるかを考えてみる。

 環境に配慮した建築について優遇した融資を行っているが、そのなかに木造建築ももちろん入っている。持続可能な森林から生まれた木材を使ったものについてはポイントがつく。ただこれは総合環境性能評価の一部なので、さらに木材に特化した指標があると、それに向けた融資も今後はあり得ると思う。

小原(日経BPインフラ総合研究所):伊藤さん、ありがとうございました。次に三菱地所の柳瀬さんお願いします。