不動産投資における可能性と課題

日本不動産研究所 研究部 次長 後藤健太郎氏(写真:菊池一郎)
日本不動産研究所 研究部 次長 後藤健太郎氏(写真:菊池一郎)
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後藤(日本不動産研究所):まず、日本不動産研究所の紹介をさせていただく。59年に設立し、不動産に係るさまざまな調査研究を行っている。基礎調査としては市街地価格調べ。これは戦前から日本の土地価格がどのような推移をしているか、さらに山林や田畑の価格も調査している。最近は環境不動産について、日本政策投資銀行と共同で「DBJ Green Building認証」を行っている。その他、不動産投資に関わる各種コンサルティング、不動産鑑定評価書の発行なども行っている。

 最初に紹介するのは、山林素地の価格推移だ。1982〜83年にピークを迎え、2015年には価格が約半分に下がっている。

山林素地(単価)の推移(資料:日本不動産研究所)
山林素地(単価)の推移(資料:日本不動産研究所)
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 次に、丸太素材価格から生産者経費などを差し引いた山元立木価格について。樹種別にヒノキ、スギ、マツを見ると、ピーク時から実に1/7から1/8になっている。ヒノキは、かつては1m3当たり4 万3000円程度だったが、現在は約6000円の水準まで落ち込んできている。

山元立木価格(単価)の推移(資料:日本不動産研究所)
山元立木価格(単価)の推移(資料:日本不動産研究所)
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 一方で、木造の建築コストについて国土交通省の建築着工統計データで確認すると、木造はジリジリと上がってはいるものの比較的に安定している。15年時点で1m2当たり16万5000円だ。同じような推移を示すのは鉄骨(S)造だが、この数年急激に跳ね上がって上昇している。また、木造に対して鉄筋コンクリート(RC)造は約1.5倍、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造では2倍近くのコストが掛かっている。

建築費の動向(資料:日本不動産研究所)
建築費の動向(資料:日本不動産研究所)
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 現状、建築されている建物構造別に見てみる。「A」と記した青色の部分は「居住専用住宅」だ。木造では住宅が圧倒的に多い。RC造でも過半が、S造でも1/4程度が住宅だ。

建築されている建物構造と用途(資料:日本不動産研究所)
建築されている建物構造と用途(資料:日本不動産研究所)
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 さらに、住宅を除いて、いわゆる非住宅について建築構造別の面積割合を見る。先ほど、木造と建築費が拮抗しているのはS造ということだったが、S造でつくられている建物が木造化の初期ターゲットと考えることができる。例えば店舗、工場、倉庫。こういった用途の建物が住宅以外の用途において、木造に置き換えられるのではないかと考えている。

建物構造別非住宅建物用途別床面積割合(2015年)(資料:日本不動産研究所)
建物構造別非住宅建物用途別床面積割合(2015年)(資料:日本不動産研究所)
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 一般投資家の目線で見た時に、普及促進に向けてどのような課題があり、どのような対応が考えられるかという提案を4点にまとめた。

 1点目はCLTという聞き慣れない材料について、一般の不動産投資家プレイヤー、いわゆる投資家や金融機関、資金を運用するマネジャーに理解してもらう必要があるだろう。伝統的な木造とは違う新しい構造体であることを理解してもらう。CLTはS造と競合する新しいジャンルの構造体だ。例えば「木質造」「新木造」「スーパー木造」といった従来の木造とは違うことを示す新しいネーミングも必要ではないか。

 2点目に、投資事業の事業収支と見合うという点で、少なくともS造と同等の建築費が求められる。しかし、CLT構造のコストは現状ではまだ高いという話が聞かれる。これをできるだけコストダウンし、S造の建築費に近づけていく。維持管理費も含めてS造と均衡することが普及促進の上では必要だ。

 木造・木質構造にする事業メリットを明確にする。経済メリット、あるいは税制優遇も含めたメリットの明確化、これらを行うことによって急速に普及するのではないかと思う。

 3点目は、木造・木質構造について、社会的環境配慮としての認知という面では、先ほど「Green Building認証」について紹介した。いわゆる環境認証や、ESG投資といった環境投資を行う上で、木造・木質の先駆的な建物について表彰する、あるいは認定していくといった制度が必要だと考える。

 最後に、金融面からの融資だけでなく、投資・出資をするファンドも求められるだろう。融資をサポートするファンド、リスクを一定程度負うファンドのほか、出資を担ういわゆる投資ファンドも必要になる。また、木造・木質建築物へ融資する金融機関へのサポート制度も考えられる。

木造・木質構造建物の普及促進に向けて(課題)(資料:日本不動産研究所)
木造・木質構造建物の普及促進に向けて(課題)(資料:日本不動産研究所)
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 具体的には、国土交通省と環境省の共管事業で「耐震・環境不動産形成促進事業」がある。例えば、こうした事業の要件として、一定の木材の使用によって出資できる新たなファンドをつくることも大きなインパクトを与えると思う。

投資ファンドの参考事例:耐震・環境不動産形成促進事業(資料:日本不動産研究所)
投資ファンドの参考事例:耐震・環境不動産形成促進事業(資料:日本不動産研究所)
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小原(日経BPインフラ総合研究所):ありがとうございました。次に三井住友信託銀行の伊藤さん、お願いします。