中大規模木造に対する国の補助事業

林野庁 林政部 木材産業課 木材製品技術室 住宅資材企画係長 佐々木嵩史氏(写真:菊池一郎)
林野庁 林政部 木材産業課 木材製品技術室 住宅資材企画係長 佐々木嵩史氏(写真:菊池一郎)
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佐々木(林野庁木材産業課):ファイナンスを考える上で、1つのオプションとして補助事業があるだろう。私からは国の補助事業について情報提供をしたい。

 木材活用については複数の省庁が補助事業に取り組んでいる。最初に、林野庁の補助事業について、さらに国土交通省、環境省、経済産業省の各補助事業について説明させていただく。

 まず、林野庁の補助事業についてだ。2016年度の補正予算が10月に成立して「CLT建築物等普及促進事業」は既に執行されている。中大規模木造、そして木造化を進めるにはその他の木造・木質材料も当然重要であるが、林野庁としては、「CLT(直交集成板)」という新しい木質材料に注目して、これを起爆剤として強力に推進していきたいと考えている。

 16年度補正予算では新しく「協議会が取り組む実証的建築支援」がある。特徴としては、設計者や施工者、CLTの生産者、地方公共団体などによる地域協議会を形成し、応募していただく。その地域協議会のなかで、CLT建築、実証的建築のプランを検討し、実証時に得られた情報やデータを広く共有しようというものだ。

 補助対象は、まず実証的なCLT建築物を建てる際の設計費と建設工事費で、補助率は最大1/2。さらに、協議会の運営についても120万円を上限に定額で支援する。このほか、「実証的な建築物の設計・建築に必要な試験等」については、実際に建築物を建てる建設工事費への支援とは別に、CLTを建てる時に必要な強度とデータ収集などを委託する。また「CLT建築物等普及促進利子助成事業」については、CLT建築物を建てる際に金融機関などからの借り入れに対して利子補給を行うというものだ。これらについて、16年度の補正予算で約10億円の予算を措置している(関連記事:昨年度比3倍予算のCLT実証事業を公募)。

2016年度補正 CLT建築物等普及促進事業(資料:林野庁)
2016年度補正 CLT建築物等普及促進事業(資料:林野庁)
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 引き続き、来年度(17年度)の事業を紹介する。今後、財務省との折衝を経て閣議決定される予定のものだ。

 「CLT等の製品・技術の開発・普及」で、先ほど説明した補正予算のメニューと同様に、実証的建築の支援や性能試験のデータ収集等も引き続き事業を継続していきたい。

 さらに、木造公共建築物に対する支援事業も予定している。補助率は建設工事費の15%以内。ただし特にモデル的なものについては、1/2の補助率とする予定。

2017年度 木造建築物への支援事業(資料:林野庁)
2017年度 木造建築物への支援事業(資料:林野庁)
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 こうした補助事業を活用するに当たり、問い合わせや相談を多く受けるのが、補助事業の申請時期だ。建設工事の着工や完成の時期が重要になってくる。

 例えば、林野庁の補助事業の場合、16年度補正予算では、12月に公募を締め切り、そこから提案を審査して評価して採択をする。国の事業としては採択後の事業着手が要件になっているので、採択が終わった後、つまり16年末~17年明け頃から事業着手ということになる。

 この事業については、設計費の支援と建設工事費の支援があり、設計だけ、あるいは建設工事費だけの補助も可能だ。どちらについても次年度の事業完了・締め切りとすることを想定しており、具体的には18年2月頃に事業完了報告を締め切る予定。したがって設計と建設工事費の両方を申請する場合は、スケジュールがタイトになってくる。まず設計を17年3月までに終わらせた上で、16年度中に工事に着手してもらう必要がある。

 一方、来年度(17年度)予算の予定スケジュールだが、こちらは国会状況にもよるが、例年3月ないしは4月初頭に予算が成立する。そこから公募を開始して、実際に事業を着手できるのはおそらく6月頃になるだろう。基本的に単年度の予算で組んでいるで、17年度中に事業を完了していただく必要がある。実際に補助金が支払われるのは18年の春頃になるのが一般的だ。

林野庁補助事業の流れ(資料:林野庁)
林野庁補助事業の流れ(資料:林野庁)
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 他省庁の事業を簡単に説明する。まず、国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」だ。今年度の当初予算で措置されており、17年度も引き続き予算要求している事業だ。

 この事業のうち、(1)「多様な用途の先導的木造建築物への支援」については、CLTに限らず先導的な中大規模の木造建築物に対して支援を行う。建築実績もこれまで56件と、実績のある事業だ。

 (2)「実験棟の整備への支援と性能の把握・検証」については、16年度の補正予算から拡充された。CLTなどで実験棟を建てて、その建物の居住性能や温熱環境の試験などを行うための実験棟に対して、定額で上限3000万円まで支援するものだ。

サステナブル建築物等先導事業(木造先導型):国土交通省(資料:林野庁)
サステナブル建築物等先導事業(木造先導型):国土交通省(資料:林野庁)
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 次に、環境省の事業を説明する。「木材利用による業務用施設の断熱性能効果検証事業」は、17年度から創設される事業だ。これは、CLTを用いて建てる建物で断熱性能などの効果検証を行う施設に対して、85%という非常に高い補助率で予算要求しているものだ。

 環境省ではこのほかにも、「業務用施設等における省CO2促進事業」と「賃貸住宅における省CO2促進モデル事業」を実施している。これらは16年度も行っている事業だが、17年度からは、前者についてはCLTを使用する建物を優先的に採択、後者については木材を使用していることを加点項目とするよう、それぞれ予定している。

木材利用による業務用施設の断熱性能効果検証事業:環境省(資料:林野庁)
木材利用による業務用施設の断熱性能効果検証事業:環境省(資料:林野庁)
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業務用施設等における省CO2促進事業:環境省(資料:林野庁)
業務用施設等における省CO2促進事業:環境省(資料:林野庁)
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賃貸住宅における省CO2促進モデル事業:環境省(資料:林野庁)
賃貸住宅における省CO2促進モデル事業:環境省(資料:林野庁)
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 最後に経済産業省の事業について。経済産業省では、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)やネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)など、ゼロエネルギー排出に対する支援だ。こちらの実証支援事業についても、ZEBについてはCLTを使用する建物を優先採択、ZEHについては木材を使用していれば加点項目とすることを、それぞれ予定している。これから予算の細かな制度設計が行われるが、17年度の事業では木造や木材利用がメリットとなる。

省エネルギー投資促進に向けた支援補助金:経済産業省(資料:林野庁)
省エネルギー投資促進に向けた支援補助金:経済産業省(資料:林野庁)
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小原(日経BPインフラ総合研究所):佐々木さん、ありがとうございました。それでは、次に日本不動産研究所の後藤さんお願いします。