エンドユーザーにどう伝えるか

小原(日経BPインフラ総合研究所):近藤さん、ありがとうございました。みなさんのお話を伺ったので、ここから議論を深めていきたい。まず、住友林業の出口さんの発表に「木悪説」と「木善説」という問題提起があった。おそらく、これにとらわれている人がまだ多いのではないかと思う。

 お客様に対して発注者がどうやって木の良さを伝えるかという時に、やはり「木悪説」がはびこっていて、クレームが怖くてついつい及び腰になってしまう。言い方は悪いが、プロもこれを助長している部分もあるのではないか。木材のいい面と悪い面について、どのような対応をされているか、聞かせていただきたい。

出口(住友林業):住宅メーカーの住友林業として、ムクの床材などを推し進めている。契約する前に、木の特性について、「熱に弱くて反ったりする」「逆に紫外線を吸収するので目に優しい」「調湿効果がある」など、デメリットだけでなく木のメリットを織り交ぜつつ説明している。お客様とのあいだで、こうした説明を行ったことを確認書として取り交わしている。これにより、木に対する理解を深め、クレームの減少につなげている。

小原(日経BPインフラ総合研究所):桧家ホールディングスの近藤さんにも伺いたい。木造住宅をお客様に広くアピールされているが、木のメリット、あるいはデメリットはどのようにお客様に伝えればよいだろうか。

近藤(桧家ホールディングス):われわれは、住友林業のような取り組みはまだ残念ながら行っていない。お客様は木だとわかっていても、例えばフローリングの目がずれているとそれがクレームになる。木の本来の特性だが、それを理解いただけない人がいるというのも現実だ。そうした現状を踏まえつつ、木の本当の良さを理解してもらいながら、しっかりお客様に良いものを提案していくことに、今後力を入れて行かなければいけないと感じている。

小原(日経BPインフラ総合研究所):内海さんに伺いたいのだが、今まで木造の建築を手掛けてきて、お客様に対して木のメリットの伝え方、広め方についての手法論や考え方があればお話しいただきたい。

内海(KUS、チーム・ティンバライズ):私の場合は「木造でやりたい」という目的意識があって相談に来られる人がほとんどで、手法論というほどまとまった考えがあるわけではない。ただ、先ほど出口さんが話されたように、デメリットや、メンテナンスに手をかけていく必要があるということ、木であることで良さがある、といった話をできるだけ実物の材料を用意して、見て触って実感してもらい、納得して使ってもらうように心がけている。

小原(日経BPインフラ総合研究所):専門家向けのアンケート結果からも、実務者は木造をつくりたく、関心を持っている。今は、いかにお客様や消費者に対してうまく伝えていくかという段階になっている。これからが本当の勝負どころだろう。技術や法制度は既に進んでいるので、木の良さや、デメリットに対してはこのような克服の仕方があるのだということを伝えることが大切になる。

服部(林野庁):このセッションのテーマは「木造建築の魅力」というテーマだ。私からは木の良いところばかりをお伝えしたが、一方でパネリストの皆さんからは「木材は使いにくい」「コストが高くなる」などデメリットも多く出された。そのうえで、住友林業やヒノキヤグループ、内海さんから、木を普及させるための取り組みについてもご紹介いただいた。

 建築というのは、たいへんクリエイティブな分野だと思う。木材はこれまでも住宅ではずいぶん使われてきたが、住宅以外の分野においては新しい材料として欧米ではイノベーションが起きている。わが国でも、新しい素材である木材を使って、ぜひチャレンジ精神を持って取り組んでいただきたい。

「木材活用フォーラム2016」セッション2の様子(写真:菊池一郎)
「木材活用フォーラム2016」セッション2の様子(写真:菊池一郎)
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